矢ヶ崎克馬琉球大学名誉教授
琉球大学名誉教授 矢ヶ崎克馬

■進行する健康被害

福島原発事故後5年を迎えるに至りました。

チェルノブイリ事故後周辺国では「チェルノブイリ法」と呼ばれる住民を放射線被曝から保護する法律ができました。法律に基づいて年間1ミリシーベルト以上の汚染地に居住する住民に対する保護と規制を実施しました。

福島原発事故5年後の日本政府は、法律的根拠の何もない20ミリシーベルトという巨大な被曝値を基準に突っ走ろうとしています。

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今の政府の姿勢は、すべての疾患を「放射能とは因果関係が認められません」とかたくなに事実を見るのを拒み、住民の健康保護を拒否しています。チェルノブイリでICRP、IAEAなどが唯一認めた甲状腺がんさえ因果関係を認めません。公的に放射線との因果関係を認めると際限なく広がる「責任・賠償」を避けようとして棄民していると考察します。

日本では日本国内の医療関係者などが安全論を吹聴している状況で、なかなか健康被害の実状がつかめません。そこでいくつかのデータを紹介して、日本に展開する放射能公害の深刻さを垣間見ます。

【1】難病者総数

最初は国立難病情報センターのデータ解析です。現在、56種の難病(特定疾患医療受給者証の発行対象の難病-2009年変更)が指定されています。※1

図1は特定疾患医療受給者証の所持者数の推移を表します。
日本国内の難病患者数の経年変化
図中右上の赤線は3.11事故前の5年間の増加傾向を直線で近似しました。

福島原発事故の起こった2011年で急激に増加しますが、増加した状態で赤線と平衡に引いた線が黒線です。その後の増加傾向は直線的でなく、加速的に増加しています。

下の図2は前年度と比較した総患者数の増減数を示します。
難病患者数の対前年増加数
2011年でそれまでの増加数平均の2.4倍増加となります。翌2012年はほぼ3.11以前の数年と同程度の増加に戻りましたが、その後増加数は年々増えて2014年では2011年の増加数と同程度まで増加しています。今後の増加が不気味です。

難病患者が原発事故とタイミングを合わせて増加しており、その増加数はうなぎのぼりの傾向にあります。注意する必要があることはデータが日本全体の難病患者数であることです。難病が増えているのは福島県だけではありません。東日本が中心的な増加区域であると思われますが、放射能公害が日本全国に及ぶことを考慮すれば、日本中の住民に危険が押し寄せています。

データは患者数ですが、死亡者数も増加していることが推察されます。

放射線の影響は身体に弱点があって、機能が不十分になりがちな所から影響が現れます。それは放射線が土地汚染などの体の外部から当たってくる外部被曝の場合でも内部被曝で放射性物質が血液やリンパ液に乗って体を巡る場合でも、放射線は特定の器官を選んで電離すなわち組織を切る作用をするのではなく、あらゆる器官に電離を行います。

したがって日頃から機能が落ちていて故障しやすいような状態になっているところをもっとひどく機能不全にしてしまいます。例えば、腎臓が弱い人は腎臓がもっと悪くなります。放射線は一般的な意味で免疫力を低下させるものですから、難病などが一挙に表面化するのです。

放射能に対する敏感さは人によってたいそう異なります。最も弱い人を防護できる社会を作らなければなりません。

【2】総人口の減少傾向

福島原発事故以来日本の総人口が減少しつつあります。

下の図3は総務省の統計による日本の人口の推移です。図中の矢印は3.11の生じた時点を示しております。データの上の直線は目安として引きました。
日本の人口推移
図3中で急激に減少しているところが3.11が生じた2011年です。福島原発事故以来人口減少が顕著です。2014年1月の減少人数は2011年2月に比して80万人で、その全人口に対する割合は1000人中6名です。年率に換算すると1000人中2人減です。長期的人口の減少があり、その増加率は直線的に減少していまして、2009年(平成21年)近辺で増加率がプラスからマイナスに転じています。

ここで増加率が直線的に減少しているのであれば、2009年(平成21年)のピークを対称にして、それ以前の増加とそれ以後の減少はほぼ同じような割合で増加し減少するはずです。2008年以前の変動率+10.0万人/年に比して2011年以後はー25,3万人/年です。実際の事故後の減少率は2008年(平成20年)以前の増加傾向より勾配が2.5倍大きな減少傾向が出ています。主要な人口減少の原因に加えて放射能公害により失われた命があることは間違いないでしょう。

参考のためにチェルノブイリ原発事故後のベラルーシの死亡率のグラフを図4に示します。
ベラルーシの死亡率の上昇グラフ

チェルノブイリ原発事故後、死亡率の上昇がみられます。重度汚染地区で事故後3年の死亡率の増加幅は1000人中2~3人というものです。

【3】壮年層で脳卒中の劇的増加

福島原発事故後2年目の2013年にはすでに下記のような報告があります。

南相馬市立総合病院の副院長を勤めている及川友好氏は、2013年5月7日に行われた衆議院震災復興特別委員会で発言をしました。及川副院長が「恐ろしいデータが出ています。我々の地域での脳卒中発症率が65歳以上で約1.4倍。 それどころか35歳から64歳の壮年層で3.4倍にまで上がっています。非常に恐ろしいデータが出ています。」と述べ、福島県では現在進行形で深刻な病気が増加していることを伝えています。

【4】事故後の自然流産の増加

ドイツの研究者Hagen Scherb(ハーゲン・シェアプ)らの論文が岩波科学、2014年6月号に掲載されましたのでご紹介します。※2

この論文は2014年2月6日発行のドイツの放射線防護専門誌「放射線テレックス(Strahlentelex)」の650-651号に掲載された論文『フクシマの影響,日本における死産と乳児死亡(Folgen von Fukushima, Totgeburten und Säuglingssterblichkeit in Japan)』をふくもとまさお氏が翻訳したもので、日本の政府統計データを分析しています。

ハーゲン・シェアプらは、日本全国を高汚染都道府県(茨城県、福島県、宮城県、岩手県)、中汚染都道府県(東京都、埼玉県)、低汚染都道府県(前二者以外)に分けて自然死産率の経年変化を検討しました。

まず低汚染都道府県の自然流産乳児死亡の経年変化を示します。
低汚染都道府県(茨城県、福島県、宮城県、岩手県、東京都、埼玉県以外の県)での自然死産率
このように低汚染都道府県では、2011年前後で自然死産率の変化傾向は変わりません。

次に中汚染都道府県である東京都と埼玉県の死産率の経年変化を示しました。
中汚染都道府県(東京都、埼玉県)
ご覧のように中汚染都道府県では、311以後、自然死産率が有意に4.0%増加しました。

最後に高汚染都道府県の死産率の経年変化を示します。
高汚染都道府県(茨城県、福島県、宮城県、岩手県)
このように高汚染都道府県では、311以後、自然死産率が有意に12.9%増加しました。(95%信頼区間=[1.033;1.235]、p=0.0075)※3

自然死産率はいずれも福島原発事故後9か月から増加が認められたものです。

細胞分裂・増殖、新陳代謝が激しいほど発がんが顕著だと言われます。放射線によってDNAが切断され、修復するときにつなぎ間違いをした細胞ががんの元になるものです。細胞分裂が激しいほど異常DNAが増殖しやすいのです。その現象でお母さんのお腹にいる赤ちゃんがもっとも放射線の影響を受けやすいのです。この統計はそれを良く物語っていると思います。

以上のデータは日本に進行しつつある放射線による深刻な健康被害を覗わせるものです。

日本のどこにいても被曝は避けなければなりません。特に食による内部被曝は毎日の食事に関わることですから倦まずたゆまず警戒を続けなければいけません。公的な住民保護策が無ければほとんど絶望的な困難が伴います。日本住民の生きる権利に於いて公的支援が必要です。

※1http://www.nanbyou.or.jp/entry/1356#p09
※2http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001028897
※3https://box.yahoo.co.jp/guest/viewer?sid=box-l-5o7k4xlfmkirkzpf2coyykxcrq-1001&uniqid=da162cdf-22df-4863-bae4-0c4617fe9f4d&viewtype=detail

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