矢ヶ崎克馬琉球大学名誉教授
琉球大学名誉教授 矢ヶ崎克馬

(1)日本原子力研究開発機構「大洗研究開発センター」で被ばく事故が起きた。

皮膚への付着被曝であることが判明し内部被曝ではなかったことで健康的にはひと安心したと伝えられる。しかし、作業員がこのような作業方法で被曝したことと室外への汚染拡散を避けるために被曝後3時間も被曝作業員が室内に封じ込められた、という事態は断じて容認することは出来ない。

それは原発事故後の国も原発・核産業も国立研究所の原研もあまりにも人の健康配慮・被曝防止を軽く見て、労働者・市民を犠牲にしている「権力的功利主義」の本質が露わになった事件と思う。

作業員の肺の中にアメリシウムが検出されたがプルトニウムは確認されていないということである。原子炉級プルトニウムの中には12%ほどのプルトニウム241が存在することが知られる。※1
核兵器級と原子炉級プルトニウム同位体重量比の例
アメリシウム241はプルトニウム241がベータ崩壊(半減期14年)して生成される。プルトニウムはアメリシウムの2ケタ倍ほどの濃度と推定するならば、これが存在確立である。これらすべては酸化物微粒子として存在するのである。アメリシウムが存在する微粒子の中には当然プルトニウムも共存するはずである。

アメリシウムが肺の中に存在することが確認されたならば、プルトニウムが存在しないはずがない。

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全体の存在比が肺の中の存在比と見るべきである。すでに鼻腔内のα線汚染が検出されているのである。

被曝した作業員の健康被害も過小評価され隠ぺいされる危惧をぬぐいえない。

国の原子力緊急事態宣言、原発再稼働、嘗てのJCO事故(ウラン燃料をバケツで扱わせて臨界の状態を作り2人の犠牲者を出した)、今回の事故と、すべてが人権を持つ個々の人間の尊厳を余りにも軽く見ている表れである。

(2)プルトニウムはアルファ崩壊する。アルファ線はヘリウムガスとなる。プルトニウムを包含したアクチニウム崩壊系列では不活性ガスのラドンが生成することは良く知られている。ラドンが生成すると酸化物として存在した酸素がラドンと共に発生する。26年間という貯蔵時間は確率として十分その可能性を考慮しなければならない。また常に崩壊しているのだから熱が生じ、蒸気圧も考慮の対象となる。その他封入容器壁との反応なども生じ得る。ガス圧が増すのは当全予期して懸からねばならないならない。

当然このような核燃料を取り扱う機関にはそれなりの施設設備が必要である。要は放射能である核燃料と人体を隔絶する施設が必要である。人と放射性物質の間を遮断する遠隔操作ルーム等々である。

また人体などの除染・人体汚染を防護する設備を欠いていたところで作業させたこともまさに体制としての人命軽視の極みであることでまさに「脅威」である。

ボルト抜きの作業過程でガス圧が高いことを確認したにも拘わらずボルトを全部抜いてしまったというあたかも作業者の注意力の及ばなかったことを、事故を招いた原因とする説は、このような作業をあのような軽微防護の体制で行わせたことを免責する議論となってはならない。

(3)今、国は原子力緊急事態宣言が発令されたままである。通常の制度の枠を越えて諸権限が内閣総理大臣に集中する。緊急事態宣言の趣旨は「原子力災害の拡大を防ぐ」ことにあるが、事実はそれとは真逆な諸施策が行われている。

通常の法律では公衆(市民)には年間1ミリシーベルトを越えて被曝させてはならないことになっているが、その法律を無視して年間20ミリシーベルトまでの被曝を住民に強制している。原子力災害の根源であるメルトダウンした炉心処理は国の経済的負担を避け東電任せにしている。

東電の唱える廃炉作業は難航し、事実上お手上げの状態である。この間空中に水中に放射能は拡散されっぱなしで原子力災害拡散の防止どころか、地球の環境を悪化させっぱなしである。石棺を被せる以外に方法はない。

環境に対する保護は今まで1㎏当たり100ベクレル以上は再利用に対象としてはならないことが定められているにも拘わらず、それを8,000ベクレル/kgとした。

環境省は「ひとことで言えば、100Bq/kgは『廃棄物を安全に再利用できる基準』であり、8,000/kgは『廃棄物を安全に処理するための基準』です」と説明しているにも拘らず、今や8,000Bq/kgを除染土などの公共利用活用の規準にしている。二枚舌と言わざるを得ない。※2

(4)安倍首相はオリンピックの招致では「アンダーコントロール」と、原発再稼働・輸出では「世界一厳しい基準」などと事実の逆を伝える「騙り」的手法で功利主義丸出しの政治姿勢である。

健康問題では住民を保護する予防医学的措置を取るどころか、逆の健康被害封じ込めを策しているとしか言いようがない。福島県民健康調査委員会では191人も出た小児甲状腺がんを未だに「事故との関係は見いだせていません」と放射能関連説を封じ込めるが、その手法は都合の悪い科学論文は検討もしないという「挙国一致体制」で封じ込めを合理化している。

放射能に関する限り、事実をまともに語ることを許さず、放射能に対する危惧を表明することさえ許さない。真摯な健康危惧を敵視さえする。「風評被害」、「食べて応援」、「復興」、「避難者支援打ち切り」。

さながら戦前の侵略戦争を行った国の市民コントロールの抑圧体制が走っている。市民を委縮させる武器となった、治安維持法(共謀罪)とセットになった監視社会(隣り組制度等)をすでに再現している。

今回の原研事故も住民、労働者を使い捨てにする体制の一環として取らえ、本質は戦争をする国づくりの「お上の都合を優先させ」「主権・人格権・生存権を民から奪う」体制下での出来事であることを見抜く視点が必要である。

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※1http://www.qst.go.jp/Portals/0/pdf/information/press/170606/press170612.pdf
※1https://www.jaea.go.jp/02/press2017/p17061201/s02.pdf
※1http://www.asahi.com/articles/ASK6D677ZK6DULBJ00Q.html
※2https://www.env.go.jp/jishin/attach/waste_100-8000.pdf