質問(質問者:滋賀県/70代/年金生活者)
自民党の安倍晋三政権は、原発の再稼働を勧めようとしています。原子力規制委員会の新規制基準適合性審査を通過して再稼働した原発は、今までの原発と違って安全なのでしょうか?安全ではないとしたら人権侵害なのではないでしょうか?また日本政府は、年間被曝線量が20ミリシーベルト以下になったことを理由の1つに上げて、田村市都路地区の避難指示を2014年4月1日に解除しました。

この年間20ミリシーベルトは、国際放射線防護委員会(ICRP)の事故収束後(復旧期)の基準年間1~20ミリシーベルトの上限20ミリシーベルトを適用したと思いますが、日本政府がことあることに根拠として名前を出してくる国際放射線防護委員会(ICRP)とはいったい何者なのでしょうか?

回答(回答者:矢ヶ崎克馬琉球大学名誉教授)
矢ヶ崎克馬琉球大学名誉教授

■原子力発電に安全という言葉はない

原発で発電するということ自体が、人間にはコントロールすることができない…どうしようもない危険があります。

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安倍内閣はそのことを承知の上で、しかも福島第一原発の過酷事故の始末さえついてない時点で、運転再開を強行するというのです。※原発の導入に関する「核の平和利用」などのアメリカの核戦略については原子力発電所は核兵器を作り続けるため誕生したをご参照ください。

今の日本国憲法の建前から言うとあらゆる政治・行政は住民を守るためにやらなければならないという原則を、はっきり投げ捨てているのです。国の都合、大企業の都合、どんな理不尽な中身を持っていても国が目指すものを優先する住民の犠牲はどれだけあってもかまわないという民主政治の原則に逆行しているのです。

政治の軸足を主権者を守ることから国家・権力の都合へと転換する歴史の逆行を行うものだということがまず大きな問題点です。まさに民主主義の国において、人々の「健康に、文化的に、豊かに、生きる」権利のすべてを破壊する方向を選ぶということで許しがたいと思います。

■国際放射線防護委員会は原発推進団体

もともと国際放射線防護委員会(ICRP)は原発を維持・推進するために「公益のためには犠牲もやむを得ない」という考え方を基軸に「勧告」を出し続けている民間団体です。

それはアララ精神(As Low As Reasonably Achievable)と言われていますが「経済的、社会的要因を考慮して可能な限り被害を少なく」という原理です。

経済的社会的要因とは、企業と国の放射線防護の負担を少なく、賠償などを可能な限り少なくするという原理です。

国際放射線防護委員会(ICRP)は1950年に発足しましたが、発足直後では「可能な限り少なく」だったんですがね、すぐに「経済的、社会的要因を考慮して」と方向を変えました。

実際ICRP(国際放射線防護委員会)は、何を防護しているのでしょうか?

ようするに大企業の利潤もうけを最大限優先し、その範囲で放射能に対する防護をするというものです。

今も「防護の最適化」という表現で「経済的及び社会的要因を考慮して」、「合理的に達成できる限り低く抑える」としています。これが国際放射線防護委員会(ICRP)の基本的な考え方。「公益のためには犠牲もやむを得ない」という思想は完璧に基本的人権に基づく「個の尊厳」に反します。

この考え方は毎回毎回の「勧告」に明示されているわけです。これをきちっと日本国憲法とのかかわりで排除していくという「住民が主人公」の政治に変換してく運動が必要だと思います。

■再稼働は許されない

再稼働することは、もう本当に許されない。危険度はすでに福島原発事故、チェルノブイリ原発事故で十分示されております。しかしチェルノブイリ周辺国は住民保護法を制定したのとは逆に、日本ではその住民被曝の被害を認めておりません

平常時の公衆に対する防護上限の1ミリシーベルトを事故直後20倍にいたしましたが、事故によって人間の放射線に対する耐久力が20倍になるはずがありません。住民を被曝させっぱなしにする最悪の棄民がなされていること自体が認めがたいことです。

それに加えての再稼働は絶対に認めることはできません。

『チェルノブイリ被害の全貌』等で多様な疾病が生じ健康状態の悲惨な悪化が報告されています。それに対して「甲状腺がん以外は認められない」と、被害を隠せるだけ隠しているのが国際放射線防護委員会(ICRP)に基づいて行動しているIAEA、WHOや原発推進機関なんです。

そうではなくて現実に被害が起こったことをちゃんと見ないといけない。そういう立場でこれだけの被害を正確に評価する必要があると思います。チェルノブイリの被害は、今福島で起こりつつある。

チェルノブイリの悲惨な結果を福島に活かさなければなりません。

やっぱり政府はきちっと住民を守る立場に立つべきです。もし、それを実現できないなら日本という国はどういう国なのでしょう? 被曝を防がないでさらに原発を再稼働することは、日本国憲法にも貫かれている民主的な考えすなわち「個を尊厳する一人一人を大切にする」という原理に反する行為だと思います。

編集後記

矢ヶ崎克馬教授が個の尊厳についても述べられていますので私のほうでも、その点について書かせていただこうと思います。

個の尊厳とは、個人の尊重のことで日本国憲法13条にあります。

日本国憲法第十三条1947年
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

この条文だけ読んでもピンとこないと思いますので少し解説します。

日本国憲法は第二次世界大戦後1947年5月3日に施行(日本国内に効力が生じること)されました。それまでは戦前の大日本帝国憲法だったわけです。

大日本帝国憲法20条には「日本臣民は法律の定むる所に従い兵役の義務を有す」とあるように兵役の義務が規定されていました。何のために?もちろん大日本帝国という団体を守るためにです。大日本帝国という団体を守るためには、兵士という個人は赤紙(召集令状)1枚で強制的に戦地に連れていかれ、戦死しても何の問題もなかったわけです。大日本帝国という団体の為に、国民という個人が犠牲になるのは当然だと。

さらに戦前の旧民法には家制度という人間を個人としてでなく、家族という団体としてあつかう制度があり、個人よりも家という団体が大切にされてきました。そして、この家という団体には戸主(こしゅ)という名のトップがおり、自分の子供を売春目的で人身売買することも平然とおこなわれていたわけです。家という団体の存続の為に、娘という個人が犠牲になるのは当然だと。

団体を守るためにたくさんの個人が死に、たくさんの個人が物として売買された、真っ暗な時代。

その夜明けを告げたのが、この日本国憲法13条なんですね。

日本国憲法第十三条1947年
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

それを知った上で13条を読むと言葉の重みが違ってくると思います。

日本国憲法第十三条1947年
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

さて日本国憲法の制定には、戦勝国であるアメリカの影響があったわけですが、この日本国憲法13条の文言がどこから来たか?といえば1776年のアメリカ独立宣言※1です。

アメリカ独立宣言1776年
…すべての人間は生まれながらにして平等で あり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている…

さらにこのアメリカ独立宣言の文言と考え方がどこから来たか?と言えばイギリスの思想家ジョン・ロックの1690年に発表した市民政府二論※2です。

市民政府二論1690年
…つまりその生命、自由、財産を他の人による侵害や攻撃から保全する権力を生まれながらに持つ…

この市民政府二論でジョン・ロックがどういう主張をしているかと言うと。

人間は、政府のない自然状態でも生命、自由、財産に対する権利(自然権)を生まれながらに持っている。しかし自然状態ゆえに犯罪が発生した場合など警察がいないなど不都合が生じる。そこで、この自然権をより確実に守るために契約によって政府を作り、政府にその自然権を守らせる。しかし政府がもし、自然権を守らなくなり侵害するようになれば、自然権の主(あるじ)…主権者たる人民は、当然に抵抗権(革命権)を行使して政府を倒し、新しい政府を作ることができる。

主張読んでいただくとわかる通り、人間(個人)が政府(団体)より元々上にあるって考え方です。だって主(あるじ)ですから、主権者ですから。なので個人の尊重は当たり前の話なんですね。

そして、この抵抗権を市民が本気でやったのが1688年のイギリス名誉革命だったり、1775年からのアメリカ独立戦争だったわけです。新しい政府作っちゃいましたから。

以上で個人の尊重の話を締めくくりますが、アメリカ人や西ヨーロッパの民主主義の国とかで育った人達からすると、個人の尊重はすごく当たり前の話なんですね。1+1=2だよと同じくらい、小学生相手でも通じる話なんです。

日本は第二次世界大戦後、日本国憲法によってこの主張というか思想を導入したはずなんですが、表面的には民主的な国家のように見えますが、個人の尊重が根付いているかといえば…。

だって安倍晋三さんのような人が首相になっちゃう国、日本ですから。

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※1 http://aboutusa.japan.usembassy.gov/j/jusaj-majordocs-independence.html
※2 http://www.honyaku-tsushin.net/koten/bn/kato.html