2015年8月25日に茨城県北茨城市が発表した『甲状腺超音波検査事業実施結果』によると、福島第一原子力発電所の事故当時に0歳から18歳だった北茨城市民を対象に実施した甲状腺エコー検査などにより3人の子供達が小児甲状腺がんと診断されました。※1
もちろん北茨城市は…
「この(子ども達の)甲状腺がんの原因については(福島原発事故の)放射線の影響は考えにくい」
3人の子供達が甲状腺がんを発病したことと、福島原発事故との因果関係を現時点では否定しています。
しかし北茨城市の子供達4777人中3人の子供達が小児甲状腺がんと診断された…つまり1592人に1人が甲状腺がんだった事実と。
そして福島原発事故前の日本国における小児甲状腺がんの推定罹患数(りかんすう、新たにガンと診断された数)は、国立がん研究センターがん対策情報センターによると1年間に100万人に0~3人で推移していたという事実は、まったく相容れません、数字が…かけ離れてしまっています。※2
そこで北茨城市の見解とは逆の結論。
「この(子ども達の)甲状腺がんの原因については(福島原発事故の)放射線の影響が考えられる」
この可能性を示す資料はないか?探ってみましょう。
【1】小児甲状腺癌患者数で比較
まずは最新の福島県の甲状腺がんと考えられる子供達172人(2016年3月31日時点)を市町村別に分類した資料(詳しくは福島の甲状腺がんと子供達→原発事故の現在は?をご覧下さい)があります。
この福島県の資料に、今回の北茨城市で甲状腺検査を受けたの子供達4777人中3人が甲状腺癌だった…つまり北茨城市の子供達の1592人に1人が甲状腺ガンだったという事実を追加してみましょう。※3
なお2016年6月2日に宮城県丸森町の甲状腺エコー検査でも2人の子供達が甲状腺がん及び疑いと診断されています(詳しくは【緊急特集】宮城県丸森町で子供2人が甲状腺がん→福島県と比較するをご覧下さい)。この2人も追加してみます。
その市町村の子供達の何人に1人が甲状腺ガンを発病したか?を色分けしたのが下記の地図となります。
地図の右側の真ん中にある×が福島第一原発です。
■…1人~999人に1人が発病
■…1000人~1999人に1人が発病
■…2000人~2999人に1人が発病
■…3000人~3999人に1人が発病
■…4000人~6999人に1人が発病
この地図を一覧表にしてみましょう。甲状腺ガン及びその疑いの子供は何人に1人いるのか?発病した割合が高い市町村順に並べてあります。
市町村名 | 患者数 | 患者は何人に1人いる? |
川内村 | 1人 | 280人に1人 |
湯川村 | 1人 | 515人に1人 |
大熊町 | 3人 | 657人に1人 |
大玉村 | 2人 | 686人に1人 |
下郷町 | 1人 | 710人に1人 |
浪江町 | 4人 | 812人に1人 |
中島村 | 1人 | 832人に1人 |
本宮市 | 6人 | 872人に1人 |
平田村 | 1人 | 873人に1人 |
丸森町 | 2人 | 991人に1人 |
川俣町 | 2人 | 1110人に1人 |
泉崎村 | 1人 | 1157人に1人 |
伊達市 | 9人 | 1178人に1人 |
塙町 | 1人 | 1255人に1人 |
田村市 | 5人 | 1265人に1人 |
郡山市 | 42人 | 1287人に1人 |
二本松市 | 6人 | 1476人に1人 |
白河市 | 7人 | 1544人に1人 |
北茨城市 | 3人 | 1592人に1人 |
いわき市 | 28人 | 1765人に1人 |
南相馬市 | 6人 | 1798人に1人 |
桑折町 | 1人 | 1874人に1人 |
会津若松市 | 8人 | 1904人に1人 |
猪苗代町 | 1人 | 1945人に1人 |
鏡石町 | 1人 | 2030人に1人 |
会津坂下町 | 1人 | 2139人に1人 |
石川町 | 1人 | 2163人に1人 |
富岡町 | 1人 | 2302人に1人 |
棚倉町 | 1人 | 2321人に1人 |
福島市 | 20人 | 2365人に1人 |
須賀川市 | 5人 | 2416人に1人 |
矢吹町 | 1人 | 2567人に1人 |
会津美里町 | 1人 | 2609人に1人 |
三春町 | 1人 | 2730人に1人 |
西郷村 | 1人 | 3618人に1人 |
相馬市 | 1人 | 5209人に1人 |
合計 | 177人 | 1735人に1人 |
今度は福島県全体で子供達の何人に1人が甲状腺がんだったのか?の平均を計算してみましょう。※3
まず福島原発事故当時、放射性ヨウ素131によって甲状腺を被曝させられた福島県の18歳以下の子供達は合計36万7672人です。この36万7672人は先行検査の対象でしたが、実際に先行検査を受けたのは検査対象者の81%にあたる30万0476人だけです。
この先行検査を受けた30万0476人の中で、先行検査で甲状腺がんが見つかったのが115人、本格検査で甲状腺がんが見つかったのが57人、合計172人です。
検査受診者30万0476人÷甲状腺がん患者172人=1746人に1人
つまり福島県の子供達の1746人に1名が甲状腺がんだったということです。
それに対して北茨城市の子供達は1592人に1人が甲状腺がんでした。
福島県より北茨城市のほうが小児甲状腺がんを発病する子供の割合が高い。
ここで1つの疑問が生じます。小児甲状腺ガンの多発の原因と考えられるのはヨウ素131です。では、このヨウ素131の放射能汚染のデータで茨城県や北茨城市が福島県と同等…あるいは福島県を超えてしまっているデータは存在するのでしょうか?
あります。2つの資料をご紹介します。
【2】ヨウ素129から推定されたヨウ素131の土壌濃度分布
ヨウ素129から推定されたヨウ素131の土壌濃度分布データです。このデータは半減期の8日と短いため今ではきれいさっぱり消えてしまったヨウ素131の代わりに、半減期1570万年のヨウ素129を調べ、穴だらけのヨウ素131の土壌濃度分布を推測したものです。※4
ご覧いただくとわかるように福島県内の市町村がメインのデータです。しかし茨城県の北茨城市、高萩市、日立市、宮城県の丸森町もデータがあります。単位はBq/m2(1平方メートルあたりの土壌に何ベクレルある?)
なお分布データの詳しい内容は幻の放射性ヨウ素汚染地図を復活させる【福島県版まとめ】をご覧下さい。
下記の一覧表の列は、まず左側から市町村名、次に同一市町村内で推定されたヨウ素131の土壌濃度のうち…↑最高値そして↓最低値、一番右側の列に小児甲状腺がん患者数を記載しました。
■…データ不明
■…1人~999人に1人が発病
■…1000人~1999人に1人が発病
■…2000人~2999人に1人が発病
■…3000人~3999人に1人が発病
市町村名 | ↓最低値 | ↑最高値 | 甲状腺がん |
双葉町 | 6817 | 28938 | 0人 |
浪江町 | 139 | 28197 | 4人 |
富岡町 | 285 | 23048 | 1人 |
大熊町 | 2532 | 21080 | 3人 |
川俣町 | 252 | 5153 | 2人 |
飯館村 | 796 | 4980 | 0人 |
南相馬市 | 265 | 4305 | 4人 |
楢葉町 | 562 | 3481 | 0人 |
川内村 | 118 | 3402 | 1人 |
田村市 | 92 | 2644 | 5人 |
福島市 | 343 | 2570 | 20人 |
いわき市 | 43 | 2414 | 28人 |
伊達市 | 45 | 2260 | 9人 |
広野町 | 506 | 1925 | 0人 |
葛尾村 | 689 | 1584 | 0人 |
相馬市 | 181 | 1154 | 1人 |
北茨城市 | 317 | 1134 | 3人 |
二本松市 | 228 | 1071 | 6人 |
須賀川市 | 307 | 879 | 5人 |
本宮市 | 469 | 866 | 6人 |
高萩市【茨城県】 | 479 | 836 | |
郡山市 | 109 | 753 | 42人 |
白河市 | 144 | 646 | 7人 |
天栄村 | 371 | 535 | 0人 |
三春町 | 501 | 501 | 1人 |
丸森町 | 223 | 460 | 2人 |
大玉村 | 407 | 407 | 2人 |
中島村 | 380 | 380 | 1人 |
日立市【茨城県】 | 370 | 370 | |
西郷村 | 225 | 326 | 1人 |
棚倉町 | 156 | 252 | 1人 |
古殿町 | 132 | 221 | 0人 |
平田村 | 182 | 182 | 1人 |
玉川村 | 158 | 158 | 0人 |
小野町 | 85 | 145 | 0人 |
石川町 | 142 | 142 | 1人 |
鮫川村 | 61 | 114 | 0人 |
【3】ヨウ素131によるホウレンソウの出荷制限
続いて、2011年3月のヨウ素131を原因とした野菜出荷制限の測定データ…日本全国版の中から、ホウレンソウのデータをピックアップします。その中から、さらに対象都道府県を福島県と茨城県の2県のみにしてデータを比較してみます。※5
なお今回ご紹介するヨウ素131を原因としたホウレンソウの出荷制限のデータの場合、全体としては福島県よりも茨城県のデータのほうがヨウ素の放射能汚染が酷いです。
これは茨城県の測定用野菜のサンプルの採取が3月18日と早かったからだと思われます。もし同じ日に福島県内で測定用野菜のサンプルの採取がおこなわれていれば福島県のほうが汚染が酷いデータが出たはずです。
それから2011年当時は、ヨウ素131の暫定基準値は1kgあたり2000ベクレルを超えると出荷制限となりました。
下記の一覧表の列は左側から、県名、市町村名、サンプルのホウレンソウの採取日、ヨウ素131の測定結果(Bq/kg)、一番右側の列は今までと同じく小児甲状腺がん患者数となります。
■…データ不明
■…1人~999人に1人が発病
■…1000人~1999人に1人が発病
■…2000人~2999人に1人が発病
■…3000人~3999人に1人が発病
■…4000人~6999人に1人が発病
都道府県 | 市町村 | 採取日 | ヨウ素 | 甲状腺がん |
茨城県 | 日立市 | 3/18 | 54100 | |
茨城県 | 日立市 | 3/18 | 25200 | |
茨城県 | 北茨城市 | 3/18 | 24000 | 3人 |
茨城県 | 常陸大宮市 | 3/18 | 19200 | |
福島県 | 田村市 | 3/21 | 19000 | 5人 |
茨城県 | 常陸大宮市 | 3/18 | 17800 | |
茨城県 | 那珂市 | 3/18 | 16100 | |
福島県 | 平田村 | 3/21 | 16000 | 1人 |
茨城県 | 高萩市 | 3/18 | 15020 | |
茨城県 | 日立市 | 3/18 | 14500 | |
茨城県 | 那珂市 | 3/18 | 13500 | |
茨城県 | 高萩市 | 3/19 | 11000 | |
茨城県 | 東海村 | 3/18 | 9840 | |
茨城県 | 常陸太田市 | 3/18 | 8830 | |
福島県 | 小野町 | 3/21 | 8600 | 0人 |
茨城県 | ひたちなか市 | 3/18 | 8420 | |
福島県 | 田村市 | 3/28 | 8400 | 5人 |
茨城県 | 日立市 | 3/30 | 8300 | |
茨城県 | 鉾田市 | 3/18 | 7710 | |
茨城県 | 高萩市 | 3/30 | 6300 | |
茨城県 | 大子町 | 3/18 | 6100 | |
福島県 | 中島村 | 3/21 | 6100 | 1人 |
福島県 | 大玉村 | 3/28 | 5900 | 2人 |
福島県 | 平田村 | 3/28 | 5300 | 1人 |
福島県 | 小野町 | 3/28 | 5100 | 0人 |
茨城県 | 高萩市 | 3/30 | 4600 | |
福島県 | 泉崎村 | 3/21 | 4600 | 1人 |
茨城県 | 古河市 | 3/18 | 4200 | |
茨城県 | 鉾田市 | 3/19 | 4100 | |
茨城県 | 茨城町 | 3/20 | 4100 | |
福島県 | 泉崎村 | 3/28 | 3500 | 1人 |
福島県 | 塙町 | 3/21 | 3200 | 1人 |
茨城県 | 茨城町 | 3/30 | 2900 | |
茨城県 | 常陸太田市 | 3/30 | 2700 | |
福島県 | 棚倉町 | 3/28 | 2700 | 1人 |
茨城県 | 鉾田市 | 3/30 | 2600 | |
福島県 | 中島村 | 3/28 | 2300 | 1人 |
茨城県 | つくば市 | 3/20 | 2300 | |
福島県 | 矢吹町 | 3/21 | 2100 | 1人 |
福島県 | 塙町 | 3/28 | 2100 | 1人 |
茨城県 | 守谷市 | 3/18 | 2100 | |
福島県 | 二本松市 | 3/21 | 2000 | 6人 |
福島県 | 矢祭町 | 3/28 | 2000 | 0人 |
茨城県 | 鉾田市 | 3/19 | 1900 | |
茨城県 | 八千代町 | 3/20 | 1600 | |
福島県 | 矢吹町 | 3/28 | 1600 | 1人 |
茨城県 | 守谷市 | 3/30 | 1500 | |
茨城県 | 鉾田市 | 3/19 | 1500 | |
茨城県 | つくば市 | 3/30 | 830 | |
福島県 | 会津美里町 | 3/24 | 62 | 1人 |
茨城県 | 守谷市 | 3/18 | 26 | |
福島県 | 西会津町 | 3/24 | 24 | 0人 |
茨城県 | 守谷市 | 3/18 | 0 |
以上、2つの資料を見てわかる通り北茨城市もっと言うならば茨城県には…福島県には及ばないにしても…かなりの量のヨウ素131が降り注いだ可能性があります。
残念ですが私達には時間をまき戻すことも、ヨウ素131で被曝した甲状腺を被爆前の状態に戻すこともできません。
そんな私達…大人が日本の未来を担う子ども達のためにできることは何でしょうか?
答えは簡単です。1年に1回は必ず甲状腺エコー検査を大人も子供も受けましょう。安心は年1回の甲状腺エコー検査のなかでしか見つかりません。
最後に。北茨城市が子供達への甲状腺エコー検査を実施してくれたこと、そして甲状腺がんの患者が出た事実を勇気をもって公表してくれたことを高く評価します。
北茨城市は、子供達に対して最善を尽くしてくれました。ぜひ今回だけで終了とせずに、継続的に甲状腺エコー検査を実施していただければと強く願います。
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≪福島原発事故と小児甲状腺がんシリーズ≫
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★宮城県丸森町→子供の甲状腺がんを福島県と比較
★茨城県北茨城市の子供3人→甲状腺がんと診断!
★福島医大が小児甲状腺がんを事実上隠蔽していた
★矢ヶ崎克馬教授がスクリーニング効果を全面否定
★福島の子供より東電社員が大事→甲状腺がん労災
※1http://www.city.kitaibaraki.lg.jp/docs/2015082500032/files/koujousenn.pdf
※2http://ganjoho.jp/professional/statistics/statistics.html
※3http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/167944.pdf
※3http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/167943.pdf
※4http://fukushima.jaea.go.jp/initiatives/cat03/pdf05/04-1.pdf
※5http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000029prx-att/2r98520000029q5s.pdf