福島県の5市町村の甲状腺を被曝していた割合

はじめに。放射性ヨウ素131の半減期は8日ですので8日で1/2、16日で1/4に、24日で1/8に、32日で1/16…という具合に短期間で半減を繰り返し…雪のようにあっという間に姿を消し、計測自体が不可能なってしまいます。

事実、福島第一原発事故に由来するヨウ素131が定時降下物として観測されたのも2011年3月11日から81日後の2011年5月15日が最後です。

■実測データは3つしか存在しない

ですから福島第一原発事故においてヨウ素131による人間の甲状腺被曝を実測した…まとまったデータは、たった3つしか存在しません。【1】日本政府現地対策本部医療班【2】弘前大学の床次眞司教授のグループ【3】長崎大学の松田尚樹教授のグループです。この3つを詳しく分析していきましょう。

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【1】日本政府現地対策本部医療班

まずは日本政府現地対策本部(オフサイトセンター)医療班が福島原発事故直後の2011年3月26~30日に福島県(いわき市、川俣町、飯館村)で1080人子供達に実施したシンチレーションサーベイメーターを使った簡易な甲状腺の被曝調査の結果です。この被曝調査は、簡易な…つまり誤差の生じやすい甲状腺の被曝調査であって、甲状腺モニターを使用した精密な被曝調査ではありません。※1

この被曝調査は2011年福島原発事故当時、日本において甲状腺がんが増えるとされていたヨウ素131による甲状腺等価線量が100mSv以上になるとSPEEDI(スピーディ緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)によって1歳児換算で予測された市町村※5で、実際に被曝の影響を受けやすい子供達の甲状腺等価線量を実測することを目的としていました。

なおSPEEDIによる予測計算は、2011年3月11日16時40分からすでに始まっていました。

しかしSPEEDIによる予測計算に使うはずのデータは、まず東日本大震災によって福島第一原発へ生命線となる電気を供給していた送電線が倒壊したことによる停電、それを補うはずの非常用ディーゼル発電機など非常用電源が存在しない、さらにデータ伝送のための政府専用回線も地震で断線し、肝心の福島第一原発のどこから?どれくらい?放射性物質が放出されるのかわからない状態で無理やり仮定を立てる方法で計算されていました。

この状態を脱するために原子力安全委員会は2011年3月16日、逆に福島県内の放射能汚染を実測してSPEEDIで仮定された計算結果と比較する、これを繰り返しデータを蓄積し、どこから?どれくらい?放射性物質が放出されたかを推定する『逆推定計算』を手探りで始めます。※12

その逆推定計算の結果が、やっと出たのが2011年3月23日の朝。

2011年3月23日その日のうちにに公開された逆推定計算によるSPEEDI甲状腺被曝地図が、これです。この地図では、2011年3月23日までにヨウ素131による1歳児の甲状腺等価線量が100mSv以上となるとSPEEDIによって予測された地域がわかります。

SPEEDIの甲状腺等価線量1歳児(2011年3月)
2011年3月23日までに1歳児の甲状腺等価線量が100mSv以上となるとSPEEDIによって予測されたのは11市町村…具体的にはいわき市南相馬市大熊町双葉町浪江町川俣町富岡町楢葉町広野町飯舘村葛尾村です。

この11市町村のうちで実際に甲状腺等価線量の実測調査がおこなわれたのはいわき市川俣町飯舘村の3市町村のみです。
福島県で1080人の子供達に実施した甲状腺の被曝調査の対象市町村(いわき市、川俣町、飯館村)
さらに確認していただきたいのは川俣町は、そもそも避難指示区域(20km圏内)にも屋内退避指示区域(30km圏内)にも該当していません。完全に圏外なのです。いわき市飯舘村避難指示区域(20km圏内)の圏外ですし屋内退避指示区域(30km圏内)に一部ひっかかっているにすぎません。やはり大部分は圏外だったのです。

つまり2011年3月23日に公表された逆推定計算によるSPEEDI甲状腺被曝地図が物語るのは、安全とされていたはずの圏外にまで、ヨウ素131が1歳児の甲状腺等価線量で100mSv以上…つまり甲状腺がんがはっきり増加する高レベルで拡散していた可能性があるという日本政府民主党に非常に不都合な計算結果だったのです。

もし今回の甲状腺の被曝調査によって、甲状腺等価線量が100mSv以上となる子供達が1人でも見つかれば、日本政府民主党による避難区域の指定は完全に失敗だったという事実が誰の目にもはっきりしてしまいます。

だからこそ今回の子供達の甲状腺の被曝調査の後に原子力安全委員会から、追加で甲状腺モニターを使用した精密な被曝調査の必要性を指摘されながら、調査が物理的に不可能になるまで放置したり…まるで甲状腺を被曝した人間がいたという事実そのものを葬り去ろう、としているかのような不気味な沈黙が横たわっているのですが。※13

話を、子供達の甲状腺の被曝調査に戻します。甲状腺被曝調査の会場はいわき市は3月26~27日にいわき市保健所で、川俣町は3月28~30日に川俣町公民館で、飯舘村は3月30日に飯館村役場……と書いてある資料もありますが実際は飯舘村議事堂で実施されました。※1※2

(1)甲状腺被曝調査の実施期間
いわき市 川俣町 飯館村 3市町村
期間 3月26-27日 3月28-30日 3月29-30日 3月26-30日
日数 2日間 3日間 2日間 5日間

(2)甲状腺被曝調査の対象年齢
対象は小児…具体的には0~15歳の子ども達です。子供達の年齢分布は以下のグラフです※14
甲状腺被曝調査を受診した子供達の年齢分布0歳-15歳

いわき市川俣町飯舘村の各会場での受診者数は以下の通りです。合計1080名です。

(3)甲状腺被曝調査の受診者数
いわき市 川俣町 飯館村 3市町村
受診者数 134人 631人 315人 1080人

なお、この3市町村に住所のある子供達だけでなく、当時は避難指示区域だった20km圏内から避難してきた子供達など住民票が検査を受けた市町村にない子供も、この3つの各会場で検査を受け人数にカウントされています。つまり…

いわき市受診者=いわき市民ではありません

いわき市民以外の人も混ざっています。

ところで福島県は福島原発事故で放出された甲状腺がんの原因となるヨウ素131がキレイさっぱり消えてしまった今、県民健康調査の一環として2011年3月11日時点で概ね18歳以下だった福島県民の子供達36万7000人に対象に甲状腺がんの調査を実施しています。

この県民健康庁調査の甲状腺検査の対象人数と、先ほどの2011年3月にシンチレーションサーベイメーターを使った簡易な甲状腺の被曝調査を受けることができた子供達の人数を並べて比較してみましょう。※3

(4)県民健康調査との比較
いわき市 川俣町 飯館村 3市町村
受診者数 134人 631人 315人 1080人
県民健康調査対象人数 62293人 2394人 1084人 65771人
受診できたのは何%? 0.2% 26% 29% 1.6%

川俣町や飯館村については26~29%ですから大雑把に言って、後に県民健康調査の対象となる子供達の3人に1人が受診できていたと考えられます…まあ、これでも少ないのですが。それに対していわき市はたった0.2%です。後に県民健康調査の対象となる子供達の500人に1人しか受診できませんでした。

いわき市で…この甲状腺被曝調査を受診できた子供達が異常に少ない

これには理由があります。中核市で2011年当時も32万人の人口を有した…いわき市は、SPEEDIによって1歳児の甲状腺等価線量が100mSv以上となると予測された地域が、いわき市中心部…つまり人口密集地帯にまで深く食い込んでしまっていました。
福島県で1080人の子供達に実施した甲状腺の被曝調査の対象市町村(いわき市、川俣町、飯館村)

当然、甲状腺被曝調査の対象の子供達は膨大な人数になってしまいます。いわき市に来たことのない人にも感覚をつかんでいただくために、例えば甲状腺調査の会場となったいわき市保健所の3キロ圏を丸で囲み、周辺に存在する小学校だけピックアップしてみました。緑色のピンマークはすべて小学校です。これらの小学校に通学する子供達が、当たり前ですが周りの住宅街にたくさん住んでいたのです。
いわき市甲状腺被曝調査の会場周辺の小学校地図
これでは対象の子供達が膨大な人数になって大変になる。そこで事前に声かけする方法…ではなく当時いわき市保健所に設置されていたスクリーニング会場にたまたま来た0~15歳の子ども達だけを対象に甲状腺の被曝調査を実施したのです。

東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(俗にいう政府事故調)の資料の中に2011年12月22日に原子力安全・保安院の統括安全審査官だった牧慎一郎に聞き取りをした取り扱い厳重注意の聴取結果書にもこうあります。※2

牧慎一郎原子力安全・保安院統括安全審査官
「いわき市の場合、対象人数が多いことが想定されたので、事前に声かけをする方法ではなく、いわき市保健所に設置されていたスクリーニング会場に来た人のうち、対象となる年齢の子供の甲状腺被ばく調査を実施することにした」

いわき市は事前に声かけしなかった…だから受診できた子供達の人数が異常に少ない

このことが…いわき市で実施されたシンチレーションサーベイメーターを使った簡易な甲状腺の被曝調査の致命的な欠陥となります。

例えば、この簡易な甲状腺検査を受けれた1080人の子供達を…当時は避難指示区域だった20km圏内、甲状腺等価線量が100mSv以上になるとSPEEDIで予測された圏内、そして圏外(住所不明者を含む)に分類した資料(※1の37Pと82P)を見てみましょう。なお合計人数が1083人と3人多いのはいわき市の記載不備による年齢不明の小児3人も含まれる資料だからです。
いわき市 川俣町 飯館村 3市町村
測定日 3/26-27 3/28-30 3/29-30 3/26-30
20km 8人 3人 4人 15人
100mSv 23人 272人 237人 532人
圏外等 106人 356人 74人 536人
合計 137人 631人 315人 1083人
一見して分かることは、いわき市は圏外の受診者が多すぎる

と言っても、上の一覧表のままでは分かりにくいので20km圏内と、甲状腺等価線量が100mSv以上になるとSPEEDIで予測された圏内を統合して圏内とします。測定日も邪魔なので削除。
いわき市 川俣町 飯館村 3市町村
圏内 31人 275人 241人 547人
圏外 106人 356人 74人 536人
合計 137人 631人 315人 1083人
これでも分かりにくそうなので人数からパーセント表記にしてみました。
いわき市 川俣町 飯館村 3市町村
圏内 23% 44% 77% 51%
圏外 77% 56% 23% 49%

圏外の受診者はいわき市が77%をも占めるのに対して、飯館村は23%、川俣村は56%にすぎません。この被曝調査、本来なら甲状腺等価線量が100mSv以上となることが予測された圏内の子供達の…実際の甲状腺被曝量を調べるのが目的(※1の27p)なはずです。つまり…

いわき市は圏外ばかり調べる…完全に的外れな調査をやっているのです

もう一度、パーセント表示ではなく実際の受診者数が書いてある一覧表を見てみましょう。いわき市の受診者のうち20km圏内は8人、そして肝心かなめの甲状腺等価線量が100mSv以上と想定された圏内の子供達はたった23人しか受診できてないのです。
いわき市 川俣町 飯館村 3市町村
測定日 3/26-27 3/28-30 3/29-30 3/26-30
20km 8人 3人 4人 15人
100mSv 23人 272人 237人 532人
圏外等 106人 356人 74人 536人
合計 137人 631人 315人 1083人

しかも甲状腺等価線量が100mSv以上と想定された圏内の子供達はたった23人しか受診できていないなのに、この子ども達の中から今回の1080人が受診した簡易な甲状腺の被曝調査でもっとも甲状腺を被曝してしまっている子供が見つかっているのです。
SPEEDI拡散予測と甲状腺等価線量いわき市35mSv
この被曝調査でもっとも甲状腺等価線量が高かったのは福島第一原発から直線距離で約40kmいわき市役所の近くに住んでいた4歳児で甲状腺等価線量35ミリシーベルトです。地図の一番下の真ん中にある黒いマークの所です。なお子供の個人情報の保護の為、地図上の位置と直線距離をわざと少しずらしました。対象の児童が特定されるのを防ぐためです※4※5

つまり私が言いたいのは、もし…いわき市でSPEEDIによって100mSv以上と想定された圏内の子供達をたった23人だけでなく…もっと調べていたとしたら?

国際的に甲状腺がんが増えると認識されている甲状腺等価線量で50mSv(ミリシーベルト)以上の子供達がたくさん見つかったのではないか?ということです。

いわき市の被曝調査については、この35ミリシーベルト甲状腺を被曝していた4歳児も含め…甲状腺等価線量が高かった11人分の甲状腺等価線量を知ることが出来ます※1

いわき市11名の児童の甲状腺等価線量
甲状腺等価線量 測定日 正味値μSv/h 実測値μSv/h
35mSv 3月26日 0.10 0.27
25mSv 3月27日 0.04 0.24
21mSv 3月26日 0.06 0.23
18mSv 3月27日 0.03 0.23
17mSv 3月26日 0.05 0.22
8.9mSv 3月26日 0.05 0.22
7.2mSv 3月27日 0.02 0.23
7.2mSv 3月27日 0.02 0.23
7.1mSv 3月26日 0.04 0.22
7.1mSv 3月26日 0.04 0.22
5.0mSv 3月26日 0.04 0.22

つまりいわき市に少なくとも甲状腺等価線量で35ミリシーベルト~5ミリシーベルトの被ばくをした子供達11人いたということです。さらに、いわき市の甲状腺の被曝調査には想定外のおまけがつきます。

いわき市は甲状腺の被爆者の割合がなぜか多いんです。

復習です。いわき市で甲状腺の被曝調査を受けた子供達は、避難指示が出ていた20km圏内や、甲状腺等価線量が100mSv以上になるとSPEEDIで予測された圏内の子供の割合が23%と少ない、圏外の子供達が77%と、ずば抜けて多い。それが…いわき市でした。
いわき市 川俣町 飯館村 3市町村
圏内 23% 44% 77% 51%
圏外 77% 56% 23% 49%
普通に考えれば20km圏内や、甲状腺等価線量が100mSv以上になるとSPEEDIで予測された圏内の子供の割合が少ないなら、甲状腺を被曝している子供…つまり被曝者の割合も比例して少なくなるはずです。※6ところが…
いわき市 川俣町 飯館村 3市町村
被曝者 59% 31% 65% 45%
ND 41% 69% 35% 55%

飯館村の65%よりは少ないですが、いわき市は被曝者59%20km圏内や、甲状腺等価線量が100mSv以上になるとSPEEDIで予測された圏内の子供達は23%でしたから2.5倍も甲状腺被曝者のほうが多い逆転現象が起きているのです。

それに対して川俣町や飯館村は、甲状腺等価線量が100mSv以上になるとSPEEDIで予測された圏内の子供達よりも、実際の被曝者の数のほうが少ないのです。並べて比較してみましょう。
いわき市 川俣町 飯館村 3市町村
圏内 23% 44% 77% 51%
被曝者 59% 31% 65% 45%

不等号を使ったほうが分かりやすいかもしれません。

いわき市圏内23%<被曝者59%
川俣町圏内44%>被曝者 31%
飯舘村圏内77%>被曝者65%

なぜ…いわき市だけ甲状腺等価線量が100mSv以上になるとSPEEDIで予測された圏内の人数よりも被爆者が2.5倍も多い逆転現象が起きているのか?

一つの要因として考えられるのは、福島第一原発の北西にある川俣町飯舘村と、福島第一原発の南側にあるいわき市では飛来した放射性プルーム(放射性雲)が違う。その結果、放射性プルームを構成する放射性物質の比率に違いがあったのではないか?ということです。
福島県で1080人の子供達に実施した甲状腺の被曝調査の対象市町村(いわき市、川俣町、飯館村)

そう私が考える根拠は?例えば床次眞司弘前大学教授のシンチレーションサーベイメータでの計測結果(※7の24p)です。どの放射性物質が?どれくらい放射線を出していたか?がわかります。このデータは2011年3月17~19日時点つまり福島原発事故直後のもので4市町村…具体的には福島原発の北西方向にある福島市国見町川俣町、そして福島第一原発の南側にあるいわき市のデータが存在します。まずは地図で位置を確認してみましょう。

サーベイメータ地図
次に、どの放射性物質が?どれくらい放射線を出していたか?を見ていきましょう。市町村名の右のかっこ内にある数字(○×km)は福島第一原発から何kmか?です。注意点としては、それぞれのグラフの縦軸のメモリの数字が違います。国見町川俣町はメモリの上限が3マイクロシーベルト/1時間で同じですが、福島市の上限は8マイクロシーベルト/1時間、いわき市は0.6マイクロシーベルト/1時間とバラバラです。つまり…

いわき市が一番放射線量が低かったわけです

3月と4月のデータがありますが3月のデータ…3月17~19日の棒グラフに注目して下さい。
survey-meter
棒グラフのオレンジ色が問題視されているヨウ素131です。一目瞭然いわき市は放射性物質中に占めるヨウ素131の割合がすば抜けて多かったことがわかります。

いわき市が一番放射線量が低かった…しかし放射性物質中に占めるヨウ素131の割合がすば抜けて多かった。この事情が当時は分からなかったためいわき市のヨウ素131による甲状腺被曝はSPEEDIにおいて過小評価されていたのではないか?

それが圏外の子供達が77%を占める的外れな甲状腺検査をしているはずなのに…59%が甲状腺を被曝しているという想定外の結果になったのではないでしょうか。

まとめます。

いわき市は事前に声かけしなかった…だから受診できた子供達の人数が異常に少ない

いわき市は事前に声かけしなかった。だから甲状腺等価線量が100mSv以上と想定された圏内の子供達…ではなく、たまたま来所した圏外の子ども達ばかり調べる…完全に的外れな調査をやっている

結果として…いわき市の甲状腺検査は、甲状腺等価線量が100mSv以上と想定された圏内の子供達をたった23人しか受診できてない。

にもかかわらず、この23人の中の1人がこの被曝調査でもっとも甲状腺等価線量が高い35ミリシーベルトだった。

100mSv以上と想定された圏内の子供達を23人だけでなく…もっと調べていれば?国際的に甲状腺がんが増えると認識されている甲状腺等価線量で50mSv以上の子供達がたくさん見つかったのではないか?

さらにいわき市は20km圏内や、甲状腺等価線量が100mSv以上になるとSPEEDIで予測された圏内の子供達は23%しかいないのに甲状腺被曝者の割合が59%もいる。

つまり福島第一原発の南方向はもっと広範囲でもっと精密な甲状腺の被曝調査が絶対に必要だったということです。

あと補足です。甲状腺を被曝しているか?それともND(不検出)か?で子供達を分類した資料については%表記の一覧表しかお見せしてなかったので人数を記載した一覧表を下記に掲載します。※6
いわき市 川俣町 飯館村 3市町村
被曝者 79人 197人 206人 482人
ND 55人 434人 109人 598人
合計 134人 631人 315人 1080人
最後に。子供達の甲状腺がどのくらい被曝していたか?を35~16mSv、15~0.1mSv、ND(不検出)で分類した一覧表をご紹介します。なお黒塗りのセルは、一般公開されていないのでわからない箇所です。※8
いわき市 川俣町 飯館村 3市町村
35~16mSv 26人
15~0.1mSv 456人
ND 55人 434人 109人 598人
合計 134人 631人 315人 1080人

2011年3月26~30日にシンチレーションサーベイメーターを使って簡易な甲状腺の被曝調査を受けた福島県のいわき市川俣町飯舘村の3市町村の合計1080人の子供達のうち…ヨウ素131によって甲状腺を35~16mSv(ミリシーベルト)被曝していたのが26人、15~0.1mSv(ミリシーベルト)被曝していたのは456人でした。

%表記にすると35~16mSv被曝していたのが全体の2%、15~0.1mSv被曝していたのは42%。

つまり甲状腺検査を受けた1080人の子供達のうち44%が甲状腺を被曝していたことになります。

【2】弘前大学の床次眞司教授グループ

続いて弘前大学の床次眞司教授のグループが福島原発事故から1か月後の2011年4月12~16日に福島県の浪江町民17人、福島市に避難していた南相馬市民45人の合計62人…年齢制限はなかったので0歳~83歳まで幅広い年齢層が検査を受けたガンマ線スペクトロサーベイメータを使った甲状腺の被曝調査の結果です※9※10※11

まずは浪江町南相馬市の場所をSPEEDIに基づく甲状腺被曝地図(1歳児)で見てみましょう。
福島県南相馬市と浪江町の地図
見ていただいてわかる通り先ほど日本政府が甲状腺の被曝調査を実施した川俣町飯舘村よりも福島第一原発に近い市町村であることがわかります。

ここから先は今回の弘前大学の床次眞司教授による甲状腺被曝調査浪江町南相馬市と、前回の日本政府が実施した甲状腺被曝調査いわき市川俣町飯舘村3市町村を比較しながら整理していきましょう。

まずは甲状腺被曝調査の実施時期です。弘前大学による甲状腺調査浪江町南相馬市は、4月12日から4月16日にかけて実施されました。日本政府による甲状腺調査3市町村終了の13日後に弘前大学による甲状腺調査がスタートしたことになります。

(1)甲状腺被曝調査の実施期間
南相馬市+浪江町 3市町村
期間 4月12-16日 3月26-30日
日数 5日間 5日間

続いて甲状腺被曝調査の対象年齢。弘前大学による甲状腺調査浪江町南相馬市子供大人問わず年齢制限なく検査を受けることができました。対して日本政府による甲状腺調査3市町村は0~15歳の子ども達のみ対象でした。

(2)甲状腺被曝調査の受診者年齢の比較
南相馬市+浪江町 3市町村
受診者年齢 0~80歳以上 0~15歳まで
対象 子供、大人 子供

弘前大学による甲状腺被曝調査浪江町南相馬市を年代別に分類したグラフが下記です。
南相馬市・浪江町の甲状腺被曝調査年代

続いて甲状腺被曝調査の受診者数。弘前大学による甲状腺調査浪江町南相馬市を合計しても62人だけです。それに対して日本政府による甲状腺調査3市町村は1080人です。

(3)甲状腺被曝調査の受診者数
南相馬市+浪江町 3市町村
受診者数 62人 1080人

今度は甲状腺被曝調査の受診者を市町村別に分類してみましょう。南相馬市は45人、浪江町は17人と2ケタの人数です。

それに対して日本政府が実施した甲状腺調査の受診者は飯舘村は315人、いわき市は137人、川俣町は631人と3ケタの人数です。

(4)甲状腺被曝調査の受診者数
南相馬市 浪江町 飯館村 いわき市 川俣町
45人 17人 315人 137人 631人

問題は、これらの甲状腺被曝調査の受診者うち何人が甲状腺を被曝していたか?です。下記の一覧表が答えです。

甲状腺被曝者人数
南相馬市 浪江町 飯館村 いわき市 川俣町
39人 7人 206人 79人 197人

人数だとピンとこないかもしれないので、甲状腺被曝調査の受診者うち何%が甲状腺を被曝していたか?パーセント表記に直してみましょう。

甲状腺被曝者%
南相馬市 浪江町 飯館村 いわき市 川俣町
87% 41% 65% 59% 31%

甲状腺被曝調査の受診者うち、実際に甲状腺を被曝していた割合は南相馬市87%浪江町41%という結果になりました。

この一覧表を今度は、甲状腺を被曝していた割合が高い順番に並べてみましょう。

甲状腺被曝者%
南相馬市 飯館村 いわき市 浪江町 川俣町
87% 65% 59% 41% 31%

甲状腺被曝調査の受診者うち、実際に甲状腺を被曝していた割合がもっとも高かったのは南相馬市87%でした。

SPEEDIに基づく甲状腺被曝地図(1歳児)に甲状腺被曝者の割合を追加してみましょう。
福島県の5市町村の甲状腺を被曝していた割合

今度は、弘前大学による甲状腺調査浪江町南相馬市の合計62人を年代別、甲状腺等価線量別に分類してみましょう。

左は年代別一覧表、右は甲状腺等価線量別の棒グラフです。
南相馬市と浪江町の被験者の年齢別一覧表、甲状腺等価線量別の棒グラフ

上の資料を見ていただいてわかる通り弘前大学による甲状腺調査で、もっとも甲状腺を被曝していたのは40代の方で33ミリシーベルトです。

今回の弘前大学、そして前回の日本政府の甲状腺等価線量の最大値をまとめると、弘前大学の調査が33ミリシーベルト、日本政府の調査が35ミリシーベルトとなります。

(5)甲状腺等価線量の最大値
弘前大学 日本政府
最大値 33mSv 35mSv

【3】長崎大学の松田尚樹教授グループ

最後に長崎大学の松田尚樹教授のグループが、福島原発事故直後…具体的には2011年3月11日から4月10日の間に福島県に支援活動や出張のため滞在したことのある人と避難者合わせて173人を長崎大学にあるホールボディーカウンターで測った内部被曝の測定結果です。※15

長崎大学のホールボディーカウンターによる測定については、特に実施期間を定めておこなったわけではなく順次、対象者が希望すれば測定をおこなっていたようです。早くも2011年3月16日にホールボディーカウンターで測定した福島県帰りの長崎県内企業関係者からヨウ素131が検出されたとの記録があります。※16

受診者年齢の分布については不明ですが、長崎大学の松田尚樹教授が「受診者の平均年齢は42歳前後」という趣旨の発言を講演会などで話されているようです。常識的に考えても福島県に支援活動や出張で子供が滞在していたとは思えませんし、避難者以外で測定を受けたのは主に大人だったと考えていいかもしれません。

被曝感受性が高い子供達はほとんど受けていない。そのことが後でご覧いただく甲状腺等価線量の最大値も、子供を対象とした日本政府や大人から子供までを対象とした弘前大学の結果よりも低い結果となる一因となっていると思われます。

なお長崎大学のホールボディーカウンターによる測定結果は、市町村別の詳細なデータでなく…福島県という北海道、岩手県に次ぐ、全国で3番目の13,782km2もの広大な面積を持つ福島県全体のデータとなります。

この長崎大学のホールボディーカウンターによる測定結果で興味深いのは、福島県への滞在期間の時期によってデータが4つのグループに分けてあることです。各グループの滞在期間と人数を見てみましょう。

(1)甲状腺被曝調査の受診者数
滞在期間 受診者数
3月11日~3月18日 45人
3月14日~3月22日 66人
3月18日~3月31日 31人
3月22日~4月10日 31人
合計 173人

では、このうち何人がヨウ素131によって甲状腺を被曝していたのでしょうか?

ヨウ素131甲状腺被曝者人数
滞在期間 被曝者数
3月11日~3月18日 21人/45人
3月14日~3月22日 11人/66人
3月18日~3月31日 14人/31人
3月22日~4月10日 9人/31人
合計 55人/173人

さらに分かりやすくするために人数からパーセント表記に直してみました。

ヨウ素131甲状腺被曝者%
滞在期間 被曝者%
3月11日~3月18日 46%
3月14日~3月22日 16%
3月18日~3月31日 45%
3月22日~4月10日 29%
合計 31%

3月11日~3月18日のグループがヨウ素131による甲状腺被曝者の割合が46%と最も多く

3月14日~3月22日のグループががヨウ素131による甲状腺被曝者の割合が16%と最も少ない

ヨウ素131甲状腺被曝者%
滞在期間 被曝者%
3月11日~3月18日 46%
3月14日~3月22日 16%
3月18日~3月31日 45%
3月22日~4月10日 29%
合計 31%

では、もっとも甲状腺を被曝していた人…つまり甲状腺等価線量の最大値はどうでしょうか?

甲状腺等価線量の最大値
滞在期間 最大値
3月11日~3月18日 20mSv
3月14日~3月22日 1mSv
3月18日~3月31日 1mSv
3月22日~4月10日 1mSv

3月11日~3月18日グループの甲状腺等価線量の最大値は20mSvと全グループ中で最も高く

その他の3つのグループの甲状腺等価線量のは最大値は1mSvと全グループの中で最も低い

甲状腺等価線量の最大値
滞在期間 最大値
3月11日~3月18日 20mSv
3月14日~3月22日 1mSv
3月18日~3月31日 1mSv
3月22日~4月10日 1mSv

ヨウ素131による甲状腺被曝者%と甲状腺等価線量の最大値を一覧表にまとめてみましょう。

ヨウ素131甲状腺被曝者%甲状腺等価線量の最大値
滞在期間 被曝者% 最大値
3月11日~3月18日 46% 20mSv
3月14日~3月22日 16% 1mSv
3月18日~3月31日 45% 1mSv
3月22日~4月10日 29% 1mSv

上の一覧表を見ると3月11日~3月18日のグループがヨウ素131による甲状腺被曝者の割合が46%と最も多くかつ甲状腺等価線量の最大値も20mSvと全グループ中で最も高い

3月14日~3月22日のグループがヨウ素131による甲状腺被曝者の割合が16%と最も少なくかつ甲状腺等価線量の最大値は1mSvと全グループの中で最も低い

そう言えそうです。

しかし東京電力が2012年5月に発表した公式資料の中にある…ヨウ素131の放出量を、私が1日ごとにまとめた幻の放射性ヨウ素汚染地図【47都道府県版】の最後にある一覧表を見たことがある方は、3月14日~3月22日のグループが甲状腺被曝者の割合がもっとも少ない甲状腺等価線量の最大値が最も低いという結果に違和感を覚えるかもしれません。

下記の一覧表がそうです。福島原発事故が起きた2011年3月に福島第一原発から放出されたヨウ素131を1日ごとに分類し、3月全体の何%が…その日に放出されたのか?がわかります。

色分けは下記となります。%表記からPBq(ペタベクレル)表記に戻した場合にケタが1つ上がるごとに色がかわります。

…100PBq以上
…10~99PBq
…1~9PBq
…0.1~0.9PBq
…0.01~0.09PBq

3月何日が…ヨウ素131の放出量のピーク…赤色に染まっているか?に注目してご覧ください。

【福島原発事故】ヨウ素放出量2011年3月分
2011年 ヨウ素131放出量%
3月12日 1.6%
3月13日 1%
3月14日 10.3%
3月15日 23.3%
3月16日 22.5%
3月17日 8.4%
3月18日 4.7%
3月19日 7.8%
3月20日 7.3%
3月21日 1.7%
3月22日 0.1%
3月23日 1.3%
3月24日 0.6%
3月25日 2.3%
3月26日 0%
3月27日 0%
3月28日 4.4%
3月29日 1.9%
3月30日 0%
3月31日 0%
3月合計 99.2%

ご覧いただいてわかる通り、福島原発事故におけるヨウ素131の放出量のピークは赤色に染まっている3月15日3月16日です。

今度は赤色に染まった3月15日3月16日前後に広がったオレンジ色の分布に注目して見て下さい。赤色の次に放出量が多いのがオレンジ色です。

【福島原発事故】ヨウ素放出量2011年3月分
2011年 ヨウ素131放出量%
3月12日 1.6%
3月13日 1%
3月14日 10.3%
3月15日 23.3%
3月16日 22.5%
3月17日 8.4%
3月18日 4.7%
3月19日 7.8%
3月20日 7.3%
3月21日 1.7%
3月22日 0.1%
3月23日 1.3%
3月24日 0.6%
3月25日 2.3%
3月26日 0%
3月27日 0%
3月28日 4.4%
3月29日 1.9%
3月30日 0%
3月31日 0%
3月合計 99.2%

するとオレンジ色の分布は、3月14日そして3月17日3月18日3月19日3月20日です。

赤色の分布は3月15日3月16日でした。

つまり、3月14日3月20日にかけて福島原発事故におけるヨウ素131放出の最大ピークが存在した。では、この放出の最大ピークに滞在しているのは、4つのグループのうちどれでしょうか?

話を長崎大学による、福島県への滞在期間の時期によってデータを4つのグループに分けた資料に戻してみましょう。

ヨウ素131甲状腺被曝者%甲状腺等価線量の最大値
滞在期間 被曝者% 最大値
3月11日~3月18日 46% 20mSv
3月14日~3月22日 16% 1mSv
3月18日~3月31日 45% 1mSv
3月22日~4月10日 29% 1mSv

わかりましたか?上記の4つのグループの中で3月14日~3月22日のグループこそ、福島原発が天文学的な量のヨウ素131を放出していたピーク時3月14日3月20日に福島県に滞在したはずなのです。

にもかかわらず3月14日~3月22日のグループは、ヨウ素131による甲状腺被曝者の割合が16%と最も少なくかつ甲状腺等価線量のは最大値は1mSvと全グループの中で最も低い

4つのグループがそれぞれ福島県への滞在期間中に放出されたヨウ素131の合計を%表記で記載してみます。

ヨウ素131甲状腺被曝者%甲状腺等価線量の最大値
滞在期間 ヨウ素放出量% 被曝者% 最大値
3月11日~3月18日 71% 46% 20mSv
3月14日~3月22日 86% 16% 1mSv
3月18日~3月31日 32% 45% 1mSv
3月22日~4月10日 10% 29% 1mSv

繰り返します。3月14日~3月22日のグループこそ、福島第一原発が3月に放出したヨウ素131のうち86%を放出していたピーク時に福島県に滞在したはずなのです。

にもかかわらず3月14日~3月22日のグループは、ヨウ素131による甲状腺被曝者の割合が16%と最も少なくかつ甲状腺等価線量のは最大値は1mSvと全グループの中で最も低い

そこに違和感を感じた方も多いと思います。

ただ最初にお話ししたように長崎大学のホールボディーカウンターによる測定結果は、市町村別の詳細なデータではなく…福島県という北海道、岩手県に次ぐ、全国で3番目の13,782km2もの広大な面積を持つ福島県全体のデータです。

下が福島県の地図です。地図の右側の浜通り地方の真ん中にある×が福島第一原発ですが、例えば3月14日~3月22日のグループの人達の多くが、福島第一原発と真反対…地図の左側にある会津地方で支援活動をしていたと推測すれば辻褄も合いますし。一般公開されている資料から推測して考察するのは、この辺が限界かと思います。
福島県3地方

最後に。実測された甲状腺等価線量の最大値の総まとめをおこないます。今回の長崎大学、前回の弘前大学、そして前々回の日本政府の甲状腺等価線量の最大値をまとめると、大人が主だった長崎大学の調査が20ミリシーベルト、大人も子供もいた弘前大学の調査が33ミリシーベルト、子供だけだった日本政府の調査が35ミリシーベルトとなります。

(5)甲状腺等価線量の最大値
日本政府 弘前大学 長崎大学
最大値 35mSv 33mSv 20mSv
対象 子供 子供大人 大人

これで福島第一原発事故のヨウ素131による甲状腺被曝を実測した3つのデータすべてを閲覧したことになります。長文を読んでいただき本当にお疲れさまでした!でも、この3つのデータを知らないと…この3つがベースになっている次回から見ていく放射線医学総合研究所などの推計した甲状腺等価線量の意味がわからなくなってしまいます。だからこそ読んでいただく必要があったわけですが。

次回からは、いよいよ国連などが市町村別に推計した甲状腺等価線量を見ていきます。

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≪福島原発事故と甲状腺被曝線量シリーズ≫
安定ヨウ素剤国際基準&アメリカ甲状腺被曝地図
SPEEDI甲状腺被曝調査致命的ミス&実測まとめ
信じられない甲状腺被曝線量【福島県版】※作成中
信じられない甲状腺被曝線量【日本全国版】※作成中

※1http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/info/20120913_2.pdf
※2http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/hearing_koukai_3/482_koukai.pdf
※3https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/115321.pdf
※4http://www.nsc.go.jp/ad/pdf/20110329_1.pdf※リンク切れ
※5http://www.nsc.go.jp/info/110323_top_siryo.pdf※リンク切れ
※6http://fmu-global.jp/?wpdmdl=415の9p
※7http://www.city.sanjo.niigata.jp/common/000065217.pdf
※8http://www.fmu.ac.jp/radiationhealth/workshop201402/presentation/presentation-3-1-j.pdf
※9http://tokoslab.weebly.com/uploads/2/1/8/7/21875738/2014.2.22__.pdf
※10http://www.jaero.or.jp/data/02topic/fukushima/interview/tokonami_t.html
※11http://www.city.sanjo.niigata.jp/common/000065217.pdf
※12http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/blog/reports/main-report/reserved/4th-2/
※13http://www.nsc.go.jp/info/20120221.pdf
※14http://www.nirs.go.jp/publication/irregular/pdf/nirs_m_252.pdf
※15https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/134/2/134_13-00227-1/_pdf
※16http://www.aesj.or.jp/atomos/tachiyomi/2011-10mokuji.pdf