東日本一帯の放射性ヨウ素汚染地図を時系列で、発表された順番に見ていきましょう。全部で5枚の放射性ヨウ素汚染地図、そして2つの一覧表をご紹介します。
■2011年5月10日発表(文部科学省)
まず最初の地図は、文部科学省が福島原発事故から約2か月後の2011年5月10日に公表された世界版SPEEDI(WSPEEDI)※1です。この地図は2011年3月12日~25日0時(13日分)までの放射性ヨウ素の地上の表面沈着量(積算)がわかります。
■2011年8月25日発表(国立環境研究所)
続いて2枚目の地図は、国立環境研究所が福島原発事故から5か月が過ぎた2011年8月25日公表した三次元化学輸送モデル(CMAQ)改良版※2です。この地図は2011年3月12日~29日(18日分)までの放射性ヨウ素の沈着積算量(推定)がわかります。
なお動画バージョンはなぜ放射性ヨウ素汚染地図が必要なのか?で見れます。ただしスマホからでは重くて閲覧できないかもしれません。
■2011年12月7日発表(日本原子力研究開発機構)
3枚目の地図はgif動画です。福島原発事故から約9ヶ月後の2011年12月7日に日本原子力研究開発機構が発表した世界版SPEEDI(Worldwide version of SPEEDI)を使ったヨウ素汚染地図※13です。この地図は2011年3月11日夜21時~4月30日午後24時(51日間)の放射性ヨウ素の拡散を知ることが出来ます。なお、この放射能汚染地図のみ積算ではありません。積算でないことは4月以降、汚染地域の一部が雪が解けるようにどんどん縮小していくことからもわかると思います。
■2012年3月11日発表(NHK)
4枚目。福島原発事故から1年後の2012年3月11日にNHKで放送された動画シミレーション※3を元にしたヨウ素汚染地図です。この地図は2011年3月12日午前10時~15日午後11時(4日分)までの放射性ヨウ素の汚染が現わされています。
動画シミレーション自体は、独立行政法人の海洋研究開発機構の滝川雅之氏らが福島県などから情報提供を得て作成されたものです。
この動画シミレーションを私が100枚近くの静止画に分解して、その地域でもっとも高濃度の放射能汚染が1時間あたりいくらだったのか?わかるように1枚の地図にしました。100枚近く重ねたため、県境の形が歪んでいる所が多々ありますがお許し下さい。
■2013年1月12日発表(NHK)
続いて5枚目は福島原発事故から1年10か月後の2013年1月12日にNHKで放送された※4放射性ヨウ素汚染地図です。この地図は2011年3月12日~31日(20日分)までの期間中、地表から地上20メートルまでに含まれていた放射性ヨウ素131の積算量がわかります。
■文部科学省のモニタリングの致命的欠点
ところで次回幻の放射性ヨウ素汚染地図【日本全国版】でご紹介する、各都道府県から届いた放射性ヨウ素の降下量を文部科学省がまとめて公表する『定時降下物モニタリング』には実は、致命的な欠陥があります。
そうです、文部科学省2011年3月18日9時から始まりましたので3月18日以前のデータがそもそも欠けているんです。
福島第一原発事故による関東への放射性ヨウ素の飛来のピークは2回ありました。2号機がメルトダウンを起こし…今回の福島県発事故で最大の放射性物質が放出された2011年3月15日。そして福島第一原発から南下した風に乗って放射能が関東一帯を覆った状態で雨が降り、地上に多数のホットスポットを作った3月20日~23日です。わかりやすいグラフを茨城県つくば市にある気象庁気象研究所※5が公表しています。
3月18日以前のデータがそもそも欠けている…ということは福島県発事故で最大の放射性ヨウ素が放出された3月15日の関東版のデータも同じく永遠にわからないのでしょうか?
その通りです。しかし…群馬県、茨城県、東京都、千葉県の4箇所だけは、それぞれ別々の研究所が測定した福島原発事故直後からの「大気浮遊じん」のデータが存在します。
そして、4箇所それぞれのデータが3月15日の最大ピークの数値をしっかりと捕らえています。この4箇所のデータを1日ごとの一覧表にして比較してみましょう。
■群馬県、茨城県、東京都、千葉県の放射性ヨウ素
情報源は、群馬県はCTBT放射性核種探知観測所(高崎市)※6、茨城県は核燃料サイクル工学研究所(東海村)※7、東京都は東京都産業技術研究センター(世田谷区)※8、千葉県は日本分析センター(千葉市)※8です。地図で位置関係を見てみましょう。地図の右上にある赤い丸●が福島第一原発です。
1日ごとの一覧表にするにあたって。群馬県のCTBT放射性核種探知観測所と千葉県の日本分析センターは日付ごとに分類された資料ですのでそのまま一覧に記載しました。東京都産業技術研究センターは当初1日を2時間単位などのブロックにして計測していましたので1日分ごとにするため合算した数字を使用しています。
それから茨城県の核燃料サイクル工学研究所のデータは2つの日付にまたがっている部分があります。この場合は、より多くの時間が属する日に仕訳してあります。たとえば4月2日21:00~4月3日9:00までのデータは、4月2日に3時間、4月3日に9時間ですので4月3日のほうに仕訳しました。
なお0は、ヨウ素がまったく検出されなかったことを、0.000は少数第4位以下の数字が切捨てされて表示上0になっていることを表しています。
千のくらいに「,」カンマは、使っていません。この一覧表に存在するのはすべて「.」小数点だけです。
小数点第3位まで出てくるため混乱を避けるため、ケタが1つ上がるごとに色を変えてあります。色分けは下記の通りです。
■…100Bq/m3以上
■…10~99Bq/m3
■…1~9Bq/m3
■…0.1~0.9Bq/m3
■…0.01~0.09Bq/m3
□…0.009Bq/m3以下
2011年 | 群馬県 | 茨城県 | 東京都 | 千葉県 |
3/11 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 |
3/12 | 0.000 | 不明 | 0 | 不明 |
3/13 | 0.002 | 0 | 0 | 不明 |
3/14 | 不明 | 23 | 0 | 6.8 |
3/15 | 14.68 | 1775.7 | 496.8 | 33 |
3/16 | 0.055 | 435 | 75.4 | 7.4 |
3/17 | 0.043 | 8.4 | 3.1 | 0.61 |
3/18 | 0.091 | 4.5 | 2.4 | 0.61 |
3/19 | 0.086 | 12.2 | 3.5 | 1.8 |
3/20 | 5.198 | 24.3 | 1.6 | 33 |
3/21 | 2.155 | 1273 | 58 | 3.5 |
3/22 | 2.117 | 118 | 96.9 | 47 |
3/23 | 0.05 | 27.2 | 40.4 | 5.1 |
3/24 | 0.046 | 7.7 | 0.8 | 2.4 |
3/25 | 0.023 | 11.8 | 0.2 | 1.7 |
3/26 | 0.006 | 4.86 | 0.5 | 0.31 |
3/27 | 0.006 | 1.71 | 0 | 0.29 |
3/28 | 0.014 | 2.5 | 0.5 | 1.5 |
3/29 | 0.094 | 3.5 | 0.4 | 1.9 |
3/30 | 0.032 | 9.4 | 1.4 | 2 |
3/31 | 0.005 | 4.19 | 0 | 0.37 |
4/1 | 0.012 | 1.24 | 0 | 0.28 |
4/2 | 0.004 | 1.44 | 0 | 0.39 |
4/3 | 0.003 | 0.526 | 0.1 | 0.44 |
4/4 | 0.004 | 1.11 | 0.1 | 0.31 |
4/5 | 0.003 | 0.55 | 0 | 0.17 |
4/6 | 0.008 | 0.65 | 0 | 0.057 |
4/7 | 0.008 | 0.84 | 0 | 0.078 |
4/8 | 0.005 | 1.2 | 0 | 0.06 |
4/9 | 0.008 | 5.1 | 0 | 0.16 |
4/10 | 0.005 | 0.63 | 0 | 0.07 |
4/11 | 0.002 | 0.3 | 0.01 | 0.086 |
4/12 | 0.003 | 0.13 | 0.002 | 0.097 |
4/13 | 0.002 | 0.17 | 0.008 | 0.052 |
4/14 | 0.002 | 0.58 | 0.002 | 0.058 |
4/15 | 0.002 | 0.072 | 0.001 | 0.015 |
4/16 | 0.001 | 0.046 | 0.000 | 0.016 |
4/17 | 0.037 | 0.83 | 0.000 | 0.16 |
4/18 | 0.014 | 1.5 | 0.015 | 0.079 |
4/19 | 0.000 | 0.031 | 0.013 | 0.071 |
4/20 | 0.022 | 0.38 | 0.000 | 0.088 |
4/21 | 0.009 | 0.099 | 0.006 | 0.032 |
4/22 | 0.017 | 1.4 | 0.003 | 0.011 |
4/23 | 0.000 | 0.035 | 0.000 | 0.006 |
4/24 | 0.000 | 0.05 | 0 | 0.033 |
合計 | 24 | 3765 | 782 | 152 |
↑合計については見やすくするため小数点以下は切り捨てしました。
※なお、神奈川県横須賀市については2011年3月14日の1日だけ日本分析センターが測定したデータ※12があります。3月14日は31Bq/m3です。
■20キロしか離れていない?20キロも離れている?
話は変わりますが、あなたは「あなたの自宅から直線距離で20キロ離れている場所」と言われた場合、近いと感じますか?遠いと感じますか?
距離に関する感じ方、考え方は人それぞれでしょうが放射性ヨウ素の拡散に関して言えば結論は20キロも離れているとなります。
それを証明しているのが関東圏の隣接する測定地点の放射性ヨウ素の降下量です。
千葉県内の千葉市と市原市の観測地点間の直線距離は16.2キロ。自動車での最短距離なら23.3キロです。
東京都新宿区と埼玉県さいたま市の観測地点の直線距離は19.6キロ。自動車での最短距離なら25.3キロです。
つまり理論上、自動車なら時速50キロで走れば30分でつく距離です。もちろん信号などありますのでカーナビ等で計算すると35分前後と計算されますが。位置関係を地図で見てみましょう。
ここでちょっとクイズです。4問あります。
・千葉県内の千葉市と市原市に降下した放射性ヨウ素の差はいくらでしょうか?
・東京都新宿区と埼玉県さいたま市に降下した放射性ヨウ素の差はいくらでしょうか?
・この4つの観測地点のなかで一番多く放射性ヨウ素が降ったのはどの地点でしょうか?
・この4つの観測地点のなかで一番少ない放射性ヨウ素が降ったのはどの地点でしょうか?
では答え合わせをしてみましょう。東京都新宿区、埼玉県さいたま市、千葉県市原市は、文部科学省のデータ※10千葉県千葉市は日本分析センターのデータです。※9
■…10000MBq/km2以上
■…9999~1000MBq/km2
■…999~100MBq/km2
■…99~10MBq/km2
■…9~1MBq/km2
□…ND(不検出)
千葉県 | 埼玉県 | 東京都 | ||
2011年 | 千葉市 | 市原市 | さいたま市 | 新宿区 |
3/18 | 60 | 21 | 64 | 51 |
3/19 | 75 | 44 | 66 | 40 |
3/20 | 7000 | 1100 | 7200 | 2900 |
3/21 | 1700 | 14000 | 22000 | 32000 |
3/22 | 17000 | 22000 | 22000 | 36000 |
3/23 | 14000 | 7700 | 16000 | 13000 |
3/24 | 240 | 130 | 160 | 173 |
3/25 | 240 | 320 | 91 | 220 |
3/26 | 83 | 42 | 57 | 100 |
3/27 | 39 | 51 | 59 | 46 |
3/28 | 36 | 36 | 34 | 37 |
3/29 | 92 | 57 | 32 | 21 |
3/30 | 64 | 63 | 270 | 50 |
3/31 | 20 | 39 | 18 | 38 |
4/1 | 15 | 6 | 14 | 0 |
4/2 | 19 | 21 | 12 | 0 |
4/3 | 0 | 22 | 16 | 20 |
4/4 | 22 | 12 | 12 | 17 |
4/5 | 14 | 0 | 5 | 8 |
4/6 | 20 | 0 | 5 | 6 |
4/7 | 0 | 0 | 8 | 5 |
4/8 | 26 | 16 | 12 | 8 |
4/9 | 0 | 42 | 16 | 19 |
4/10 | 0 | 0 | 3 | 3 |
4/11 | 32 | 64 | 25 | 100 |
4/12 | 0 | 0 | 3 | 0 |
合計 | 40797 | 45786 | 68182 | 84862 |
差 | 4989 | 16680 |
↑一覧を見やすくする為すべて小数点以下は切捨てにしてあります。
さて、まずは隣接する測定地点間の差です。
千葉県内の千葉市と市原市の観測地点間の直線距離は16.2キロ。放射性ヨウ素の差は4989。
東京都新宿区と埼玉県さいたま市の観測地点の直線距離は19.6キロ放射性ヨウ素の差は16680。
たった直線距離16.2~19.6キロの違いでも放射性ヨウ素の降下量が4989~16680と大きく変わってしまうのです。さらに思い出して下さい文部科学省のデータには3月18日以前のデータがそもそも欠けています。
つまり国民一人一人の元へ降り注いだ放射性ヨウ素131を推測するには、文部科学省の3月18日から測定が始まった日本全国たった47箇所データでは、あまりに測定地点が少なく、あまりに測定開始時期が遅すぎるのです。
答え合わせを続けましょう。4つの観測地点のなかで一番多かったのは東京都新宿区で84862。一番少なかったのは千葉県千葉市で40797でした。実際に地図上で見てみると、こんな短距離でなぜ?こんなに差がでる?というのが実感できると思います。
このように国民一人一人の元に放射性ヨウ素がどれくらい降り注いだか?わからないにも関わらず日本政府は、2011年3月26~30日に福島県の1080人の子供達に実施したシンチレーションサーベイメーターを使った簡易な甲状腺の被曝調査をもって、それ以後、一切の甲状腺の被曝調査を放棄しました。原子力安全委員会から甲状腺モニターを使用した精密な被曝調査の必要性を指摘されながらです。※11
当たり前ですが福島原発事故直後に、実際に個人個人の甲状腺を甲状腺モニターで測らないと、実際の被ばく線量はわかりません。それを日本政府はやらなかったわけです。
つまり福島原発事故当時…国民一人一人がいたその場所に
放射性ヨウ素がどのくらい降ったか?も
国民一人一人が
放射性ヨウ素で甲状腺をどれくらい被曝したか?も
ほとんどわからないということです。
国家というマクロな視点から見た場合、いままでご紹介した資料は無価値ではありません。しかし、あなたやあなたの家族、そして国民一人一人の甲状腺がどのくらい被曝してしまったか?というミクロな視点から見れば気休めにしかならないのです。
国民を被曝から守ることもできず、甲状腺モニターで精密な調査をすることもせず、無為無策の限りを尽くした以上は、定期的な甲状腺エコー検査や手術費用や治療費用はすべて、東京電力と国が負担すべきものです。
なお茨城県の北茨城市、高萩市、日立市については.放射性ヨウ素汚染地図【福島県版】にデータがありますので合わせてご覧下さい。
▼この関連記事が一緒に読まれています(^O^)
≪幻のヨウ素汚染地図を復活させるシリーズ≫
★なぜ放射性ヨウ素汚染地図が必要なのか?
★幻の放射性ヨウ素汚染地図【福島県版】
★幻の放射性ヨウ素汚染地図【関東・東京版】
★幻の放射性ヨウ素汚染地図【日本全国版】
※1http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/05/10/1305799_0325.pdf※リンク切れ
※2 http://www.nies.go.jp/shinsai/index.html
※3 http://www.nhk.or.jp/etv21c/file/2012/0311.html
※4 http://www.nhk.or.jp/special/detail/2013/0112/index.html
※5 http://www.mri-jma.go.jp/Topics/H23_tohoku-taiheiyo-oki-eq/1107fukushima.html#jouken
※6 http://www.cpdnp.jp/pdf/110826Takasaki_report_Aug23.pdf
※7 http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/pdfdata/JAEA-Review-2011-035.pdf
※8 http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/whats-new/measurement-kako.html
※9 http://www.jcac.or.jp/uploaded/attachment/28.pdf
※10http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/list/195/list-1.html
※11http://www.nsc.go.jp/info/20120221.pdf※リンク切れ
※12http://search.kankyo-hoshano.go.jp/top.jsp
※13http://nsed.jaea.go.jp/ers/environment/envs/fukushima/index.htm