2016年7月1日の夕方16時17分頃に、京都大学医学部附属病院の旧産婦人科病舎にある1階のRI低レベル実験室で発生した火災は、1室約29平方メートルが全焼、3人が煙を吸うなどして気分不良を訴えました。※1
火元となり全焼したのは放射線管理区域内のRI低レベル実験室で、一時、火災現場では微量の放射性物質を検出したが、建物外部の放射線量が自然界と同レベルであることを消防署と京都大学の放射線管理部門が測定し、放射性物質の外部拡散はなかったと結論付けています。※2
この火災事故に関して琉球大学の矢ヶ崎克馬名誉教授より寄稿がありましたのでご紹介します。
京都大学医学部附属病院で放射線管理区域内が炎上する火災事故が起こりました。今後のことも含めてこのような事故の際に市民として注意すべきことを整理しました。 |
―京大放射性物質炎上事故等に際して一般的注意事項の考察―
<目 次>
1.基本的注意
2.空間線量と被曝ベクレル数
3.微粒子の性質
4.放射線の危険を隠す傾向
5.事故が発生した時の危険の告知
6.被害は住民の自己責任で良いのか
7.警戒は内部被曝
8.声を上げないと何も変化しない
1.基本的注意
(1)事故が起こった時にまず基本的な注意事項として、煙を吸わない、煙に当たらないことが大切です。また、野次馬になるな!ということです。外部被曝よりむしろ内部被曝の方が避けなければならないものです。放射性物質が炎上すると通常は酸化されてかつ微粒子の状態になります。多くの場合、微粒子は不溶性です。不溶性の放射性微粒子を吸い込むことは大変危険です。近隣の住人は、在宅する場合は外気を室内に入れない注意が必要です。子どもの外遊びは止めて室内にいるようにしましょう。外に干した洗濯物は取り入れる。
(2)事故後、高線量の場所に近寄らないことです。燃えたすすが残っているような場所ではすすが些細なことで剥離したり、すすの中の放射性微粒子が空中へと飛び出す状況が続いています。すす、あるいはその中の放射性微粒子を吸い込むことが危険です。すすなどを身体に被らないようにすることが大切です。関係者で掃除をする等の仕事をされる場合は、マスクをし、防護服(ビニールカッパなどでも応用が利く)を着ましょう。ガンマ線の外部被曝はどうしようもありませんが、内部被曝を最大限防護するようにマスクをしましょう。高性能のマスクが有効です。
煙の当たった床や壁、天井あらゆるところからすすや煙の残渣を徹底的に排除しましょう。付着させることによる除去方法が最安全。その後他の方法により除去を完全なものにしましょう。
(3)事故後に市民が、やむなく近寄らなければならない時は、マスクをしましょう。その危険がある場所は事故現場からせいぜい1km以内というようなものでしょう。1km以内にいる人は、雨がしっかり降るまでは、洗濯物を屋外に出さないようにする必要もあるかもしれません。一雨来ればその後は普段通りに。ただし雨には打たれない方が良い。
ここで1kmというのはごく小規模の放射性物質炎上火災の時で、ほとんど無風状態に近い状態でのことです。エイヤッと評価したものです。
(4)それより遠くにいる人は普段と同じ生活で構わないでしょう。洗濯その他も普段通りに。
(5)火事が起こったその時に運悪く風下にいて吸い込んだ可能性のある人は、確率の高い症状は眼に炎症や違和感が出たり鼻血が出たりする症状(急性症状)が出るかもしれません。血球数のチェックなどの血液検査を受けておいた方が良いかもしれません。ただしその人が将来がんになっても「がんの原因は火事で放射性物質の煙を吸ったことだ」と断定することは決してできません。だから逆に「安全だ」という嘘がまかり通るのです。検査では被曝が有ったという確認ができます。この確認は何かの時に役に立ちます。あるいは内部被曝は無かったと安心できるでしょう。
2.空間線量と被曝ベクレル数
例えば、周辺で空間線量を測定して、例えば0.5μSv/hであったとしましょう。その時その場所に居る一人当たりの身体を貫く放射線量として8万ベクレルほどの放射線があります。空間線量はその場の放射線量の測定ですが、燃え上がった放射性物質の総ベクレル数ではありません。また、空間線量測定は外部被曝の測定ですが、内部被曝の方を主として警戒して避ける手段が必要です。外部被曝の軽減は空間線量の低い場所を選ぶことで達成できます。すなわち、野次馬となり現場を見に行くようなことは止めた方が良い、ということです。
3.微粒子の性質
微粒子の空気中での運動は1秒間に1mm程度しか落下しないことが特徴です(物理的にはストークスの法則と呼ばれます)。微粒子の直径が小さいほどゆっくり落下します。
無風の状態では周囲1㎞程度の範囲では1昼夜経過すると空気中に微粒子が漂っているのがようやく治まるでしょう。
微風でも風が吹いていると相当遠くまで飛びます。風速毎秒4m、微粒子が火事で噴き上げられた高さは20mを仮定すると、直径8μmの微粒子で5㎞、直径2μmの微粒子で80㎞、直径1μmならば300kmに及びます(微風が一様に吹いていると仮定)。風下の住人は1昼夜は警戒時間帯と考えていいでしょう。
4.放射線の危険を隠す傾向
日本では「100ミリシーベルト以下では健康被害は認められていない」という趣旨などの数々の研究事実に明確に反する悪質な過小評価が小中高校の副教材「放射線読本」に書かれている状況です。「原子力緊急事態宣言」が5年経っても解除されず、チェルノブイリの経験にも逆行して、住民を20mSv/年間の高線量で被曝させっぱなしにするという残虐な状況が続いています。環境にも、キロ当たり8000ベクレルの除染後の汚染土壌を公共事業に使用しなさいと、環境省が強制し、放射性物質の政府による拡散が続いている状況です。チェルノブイリでは実に多面的な疾患が住民を苛んできましたが、IAEA、ICRP等は甲状腺がんのみを放射能の影響とし、健康被害が記録上無かったことにしております。日本で多量発生の甲状腺がんさえ「原発事故とは関係が認められない」と認めていません。科学的には明瞭に放射線が起因と認められるのです。
被曝の危険が逆に100%安全にされているのが日本です。
5.事故が発生した時の危険の告知
むしろこのような事故が起きたとき、「煙を吸い込むな」、「マスクをしろ」、「室内に外気を入れるな」、等の危険を避ける方法を呼びかけることが必要です。放射能が放出された直後が防護としても大切です。時間が経てば空気中に浮いている放射性微粒子も少なくなり汚染濃度も軽くなります。より集中した防護は事故直後が大切なのです。最小限の警告として、マスクをしろ、室内に外気を入れるな、程度の警告は必須です。少なくとも野次馬がたかる状態を放置するなどもってのほかです。また、市民もその程度の自己防衛の知識を持つべきです。
当事者は可能な限り速やかに事実を公表すべきです。放射能に関しては、核種、科学的状態、物理的状態その状態(固形、液体、気体?)、分量(どれほどどん状態で残存するか、減損した分の状態、燃えた者の量)、酸化した場合の化合物名、溶性か不溶性か、等です。
危険なことが生じているのに、それを危険と言わない当事者や報道自体の方がよほど、「どうかしている」と思いませんか?
大雨で、川が氾濫する危険には「如何に早く、如何に徹底して」危険を周知徹底させるかが行政や報道陣の責務と位置付けられるのに、放射能汚染に関しては全く逆のマナーが要求されます。「放射能の襲来のお知らせよりパニックを防ぐ方が優先される」というけったいな報道統制が優先されます。危険より安全論が大切にされます。どうしてなのでしょう?
6.被害は住民の自己責任で良いのか
住民に安全と思いこませ、防護の行動を阻止する。そして背後に健康被害を起こしても全く自己責任と言われて唯々諾々としている市民の姿があるとすればぞっとします。それだけ放射能被害については神経質に徹底して原子力ムラの自己防護(隠蔽)原理が働いているのです。
ICRPの防護3原則の第一は「正当化」というものです。「原子力発電などの行為が正当化できるのは公益(発電)がリスク(放射能で人ががんや白血病や急性症状等で死ぬこと)よりも大きければその行為は正当化できる」というものです。産業の営利行為と命・健康等の人格権を天秤に掛けるという功利主義(人間を大切にするよりも利潤が大切)という原理を世界の原子力マフィアが各国に押し付けているのが実態です。その上に乗っかって、被害隠しが徹底的全面的に世界大戦後ずっとなされてきました。それが原子力ムラの体制で支配力そのものです。
福島県の元双葉町長の井戸川克隆さんが「正確な情報を市民に伝えず余分の被曝をさせた」と政府などを相手取って訴訟しています。双葉町民が高線量沿いに避難させられたのは、あの大被曝をもたらした福一事故直後のことなのです。事故が起きたときに危険があれば即刻市民に警告するのは当事者と報道陣の重要な責務です。ことが終わってからでは市民生命が守れない事象なのです。
とにかく被害者はいつでも市民なのですから。疫学調査で放射能起因のがん死が増加しているとわかった時には、もうその市民はこの世にいないのですから。この悔しさを制度化しているのが、国際原子力ムラ:核戦争・原発推進機関なのです。その不当性は現場で指摘しなければなりません。
日本の人口動態調査によれば2011年以降の減少ぶりは異常です。難病患者数の増加ぶりは2011年以降急増しています(矢ヶ崎克馬:進行する健康被害※3)。また、都内の病院新患者数も激増しています(渡辺悦司ら:放射線被曝の争点(緑風出版、2016))。これらが3.11事故による放射能放出と関連があることを恐れます。予防医学的観点から住民の健康防護策が緊急の必要と考えます。
7.警戒は内部被曝
火災などの場合、外部被曝よりも内部被曝をより警戒しなければなりません。放射性物質が酸化されたエアロゾールを吸い込んで内部被曝した場合、危険です。放射性物質の酸化物は微粒子を形成し、多くの場合、不溶性です。不溶性微粒子の周囲の被曝は高濃度の電離を起こし分子を切断いたします。異常DNAも作り出します。健康被害(発がんその他)は吸い込んだ量に依存することは間違いありませんが、少量だから安全ということはできません。
室内で測った空間線量も外部被曝だけを測定しております。総線量が少ないから大丈夫という論は外部被曝だけを想定しており、内部被曝の危険とは別の事象と思った方が良いのです。身体に着ける線量計で内部被曝は測定できないのです。
外部被曝はガンマ線だけと大雑把に考えても良いものです。内部被曝はアルファ線、ベータ線、ガンマ線すべてが被曝に関与し、微粒子周辺に高濃度被曝を与えるものですから危険なのです。ICRPでさえ発がんは「たった一つの細胞のDNA異常から出発する」としています。外部被曝より内供被曝の方が異常DNAを形成する上でより危険な被曝状況を作り出します。
8.声を上げないと何も変化しない
放射能公害に対しては、市民が力を合わせて、放射能汚染状況と住民被害の予防を「放射能公害」として政府に認めさせ、政府と加害企業の責任を明確にしなければなりません。予防医学的に全国住民の健康診断と治療を政府責任で行うことを要求しましょう。
事実に基づいた報道・伝達を要求しましょう。
個別の放射能事故等に関しては、住民の健康を保護する観点から、事実に基づく告知が必要と考えます。
※1https://twitter.com/en_716/status/748807934394572800
※2http://crmskyoto.exblog.jp/25759221/
※2http://www.sankei.com/west/news/160701/wst1607010075-n1.html
※2http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/info/pdf/20160704_01.pdf
※3http://okinawahinansha.wix.com/houshanou-kougai#!topics-1/zdwdo
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