矢ヶ崎克馬琉球大学名誉教授
琉球大学名誉教授 矢ヶ崎克馬

福島原発事故後、丸7年経ちました。

核被害を無いものとする圧倒的な戦力を持つ「知られざる核戦争(核被害を無いものとする核推進権力の市民に対する総合戦)」が総攻撃の様相を呈しています。

歴史を繰り返させて良いものでしょうか?

トーマス・ファーレル准将の言明

原爆投下直後1945年9月2日の日本の降伏文書調印を取材に来た新聞記者が、アメリカとイギリスでヒロシマを報道し「まったく傷を受けなかったものが1日100人の割合で死んでいる」等の報道をしました。

それを否定するために1945年9月6日、マンハッタン計画の副官トーマス・ファーレル准将が東京入りして「広島・長崎では、死ぬべき者は死んでしまい、9月上旬現在において、原爆放射能で苦しんでいる者は皆無だ」と宣言し、その後は占領軍等によりファーレル言明に従う「調査」「処理」がなされ、「公式見解」が作られました。※1

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ファーレルの政治的言及はずっと日米の公式見解とされてきました。1968年、日米両国政府が国連に共同提出した広島・長埼原爆の医学的被害報告のなかには「原爆被害者は死ぬべきものはすべて死亡し、現在、病人は一人もいない」と書かれておりました。

1975年末に原水爆禁止運動として第一回国連要請団が国連に要請書を提出しようとした際には上記報告書を理由に事務総長はそれを受理しなかったことが報告されています(故肥田俊太郎先生)。

この被害事実の封じ込め、すなわち「知られざる核戦争」はその後の人道を求める巨大な声に押されてほころびが出るに至っています。国連で核兵器禁止条約が圧倒的な多数で採択されるに至り「核兵器は人道に反する禁止すべき兵器」とされました。

安倍晋三首相の言明

東京オリンピック招致決定直後の2013年9月7日、安倍晋三首相は記者会見しました。福島原発事故に関して「汚染水問題でありますが、まず、健康に対する問題は、今までも、現在も、これからも全くないということははっきりと申し上げておきたいと思います。さらに、完全に問題ないものとする抜本解決に向けたプログラムをすでに政府は決定し、すでに着手しています。私が責任をもって実行して参ります。」と言明。※2

安倍言明の実施部隊は誰でしょう?

今回の執行部隊は占領軍ではありません。日本、官民挙げて(政府、行政、司法、地方自治体、多くの市民が)首相言明どおりの事故処理の「抜本解決」を執行しようとしています。もちろん背後には国際原子力機関、国際放射線防護委員会、原子放射線の影響に関する国連科学委員会が大本営を構成します。

7年間の「知られざる核戦争」

放射能は言うな、健康被害は一切無い

政府が認めるだけでも広島原爆の168発分の放射能が放出しています(きちんと見れば400~500倍とされる)。健康被害が無いはずがないではありませんか?

政府や東電、福島県などの自治体、それを支える「専門家」は必至で「健康被害は無い」の大合唱をいたします。なぜか?それは実際に被害が出ているからです。

復興庁による「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」、農林省による「今、私たちにできること、風評に惑わされない生活をしよう」、「食べて応援しよう」キャンペーン、池田香代子ら:「しあわせになるための『福島差別』論」、福島県による「復興」「帰還」、等々。

一口で言えば、放射能を客観的に論議しようとすること自体が「風評である」とされ、放射線の健康への影響はないと思い込むことが「幸せを作る」のだという心の問題に置き換えられます。根拠なき精神論は猛威を振るいます。

首相の「抜本解決」の内容はどうなのでしょう。

「健康被害が無い」ことは最大の健康被害が表面化している小児甲状腺がんを放射線と関係づけさせないことにより、防護線が張られます。患者発生率が事故原発からの距離に反比例すること、土壌汚染の強度に比例することを挙げただけでも、事故との関わりは明白です。その他がんの男女発生率、疫学統計分析等々数々の証拠があります。それが一貫して「事故との関係は見出されない」として、健康被害が封じ込められています。

「避難者は既にいません」は「避難者支援の予算はゼロです」に置き換えられます。住宅支援等を停止することにより帰還が強制され、「復興」が全面的に展開する強制被曝が進みます。

純朴な郷土愛「先祖伝来の田畑を守りたい」が政府・国際ロビーの最安上りの棄民政策「避難させるな」に形の上で完全一致し、完璧な餌食となっています。数々の悲劇の「絆」が生まれています。

人格が武器そのものに変換されるー心も体もー

「放射能の被害は無い」キャンペーンは巨大な利益を「核兵器推進勢力」に与えます。原爆投下以来続いた「知られざる核戦争」の全面的展開です。トランプ大統領の核戦略見直し「核抑止力強化」の精神的抵抗・障壁を無くするものです。日本政府はもろ手を挙げて「実戦で使える小型核兵器の抑止力」に賛成しています。日本を「戦争をする国」に変えようとしています。

戦争をする国造りはひとを「人格」から「武器そのもの」に変換します。命を大切にする民主主義の基本が放棄されます。

「お国のため」の「高貴な日本型精神」が棄民策を覆い隠します。

「放射線で健康被害がある」が非国民とされる社会はまっぴらです!

「戦争ができる国づくり」には反対です。

放射線は生命に異質な危険をもたらします。

核兵器は禁止すべきです。核発電(原発)は禁止すべきです。

すでに放射能分野では事態は深刻です。

原子力緊急事態宣言の下で総動員体制は大きく進んでいます。

放射能版の「高貴な精神」は「放射線に健康影響は無い」とただ信じる精神に置き換えられ、被曝を防護しない国の「棄民」政策・風評被害払拭、食べて応援をありがたいものとして押し付けられます。放射能が関与する膨大な症状を有する「活性酸素症候群」は放射能に関係ない「奇病」とされます。福島県内在住の小児甲状腺がん手術者84人のうち8人が再発しています。これらは日々放射線被ばくが続いている証拠ではないかと思われます。

しかし、政府のキャンペーンは、放射線に健康影響は無い」と信じることで「幸せ」になれると言います。放射能被害は無いと思う幸せを「食べて応援」で甘受しようと大合唱しています。この幸せはなんでしょう?戦前の「国家総動員」の幸せです。

政府の方針は「一人一人を大切にする」民主主義とは逆のように思います。

人格を支えあう人々が社会を守る

しかし人格を支えあう非常に多くの人々が健在しています。

「一人一人が大切にされる社会を作り上げましょう。」

この声は虐げられつつある市民の声なき声です。一人一人が大切にされることを社会の基本として、一人一人の人間たるところを示そうではありませんか。

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※1https://en.wikipedia.org/wiki/Thomas_Farrell_(general)#/media/File:Brigadier_General_Thomas_Farrell.jpg
※2https://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0907argentine_naigai.html