原子炉から放出された放射性微粒子ってどんなものなんでしょうか?※自分詳しいんで物理学者の専門用語を使ってもらってかまいません。 |
A回答(回答者:矢ヶ崎克馬琉球大学名誉教授)
放出した微粒子について科学的に分析した論文があります。
ADACHIらの論文(Emission of spherical cesium-bearing particles from an early stage of the Fukushima:Scientific Reports, 3, Article number:2554(2013))は「不溶性微粒子」を確認したことと、加えて、微粒子内部での原子配置が均一であったことを確認した点で重要だと思います。
この論文で扱っている微粒子は、つくば市において3月14日に空気中から採取したものと20日に採取したものです。原子炉爆発により、3月14日に採取された大量のエアロゾールは、不溶性の微粒子が、3月20日に放出されたエアロゾールは可溶性であったことが報告されています。不溶性の微粒子の特徴は直径が2μmほどで1粒子のセシウム137と134の放射線強度は1.4Bqほどであるとされています。
物理屋として私が非常に興味を持ったことは微粒子の中の原子分布が均一になっていることです。
原子炉から放出される放射性微粒子は、炉内が高温になってあらゆる放射性物質、金属等が気化し高圧力になることによって爆発します。爆発して冷える過程で微粒子が形成されるのですが、通常は「沸点の高い元素の原子から互いに衝突して合体していき、微粒子の芯は高沸点の原子から構成される。沸点の低い元素は微粒子の外側にくっついていく。」というような概念で理解されています。(この際、沸点という用語は単体(同じ元素だけが集まった組織)に関する物理用語です。あらゆる原子が1個1個バラバラになっている状態は決して単体としての物理的性質は現れません。しかし単体の沸点などは、その原子の一番外側の電子の結合力の尺度になっているからこのような物理的過程が実現いたします。)
しかし福一爆発での3月14日採取の放出微粒子は、微粒子内部での原子の分布が均一になっていました。その微粒子は不溶性が確認されました。
微粒子内部での原子の分布が均一であったことは、いったん爆発して微粒子が形成され、それが大気中外部放出されるまでに500℃~1000℃くらい(微粒子が再気化しない温度)の温度領域に比較的長時間留まる条件があり、その温度で焼鈍(焼きなまし)されたのだと思います。
焼鈍の結果、熱エネルギー(温度により原子が活発に動く)で原子の位置が入れ替わり、それで原子の分布が一様になった。均一に分布することが原子配列としてのエネルギーが一番低い状態なのです。
福一の爆発記録を調べると、2番目に爆発した(3・14)3号機は1号機の爆発とは規模も形態も違いますが、2回(複数回)爆発したと伝えられています。核爆発であったとも推察されています。爆発過程で上記のような条件が出現したものと思われますが、圧容器、格納容器、燃料プール等の破損の全容が明らかになれば、その過程の解析を進めることができます。
3月20日測定された放射性微粒子は通常の1回爆発であった結果、(単体では)低温に沸点があるセシウムは微粒子の最外部の位置にあったことがADACHIらの報告から読み取れます。
一般的に市民が吸い込んだりして被曝する際の放射性微粒子については以下のように考察されます。
(1) 原子炉から放出された微粒子は大きく分けて2系統あります。
一つは「微粒子の中の原子分布が均一になっている」不溶性微粒子(3・14検出)、もう一つ(3.20検出)は、Csが微粒子の表面についている可溶性微粒子があります。
この2番目は、微粒子の形成が高温状態から冷却されていく過程で融点の高いものから微粒子を形成することとなりますので、セシウムは一番最後にすでに微粒子が形成されている微粒子の表面に結着するようになります。
(2) 美味しんぼの漫画にある「TEPCO視察」で吸い込んだりした微粒子は上記のうちの2番目が該当するのではないかと思います。この場合、文字通り微粒子は水溶性としての性質を表すと思います。今も、原子炉から1時間当たり1000万ベクレルの放出が続いているのですが、その放出されている微粒子は水溶性だと仮定しているわけです。TEPCO視察で、空間線量が高いことを外部被曝的に原子炉に近づいたからであると理解するのは誤りであると思います。放射性微粒子が舞い狂っている空間に身を置くことになるのですから。マスクのわずかな隙間から吸い込まれる微粒子の数は想像以上の多数だと思います。また、この放射性物質を含んだ空気の流れは市民サイドにも押し寄せ、今も市民を呼吸被曝させ続けています。
(3) 一般的に市民が吸い込む放射性微粒子は、上記(1)の微粒子と、いったん土壌中に吸収され、その後舞い上がった土ぼこり:土壌微粒子にCsが付着しているものの2種類があると思います。土壌微粒子付着の状態は不溶性であると推察します。というのは、Csと土壌の結合はすごく強く、除染の場合に、コンクリートやアスファルトはいくら除染行為をしても除染できないという現象で市民は承知しています。水溶性で土壌に染み込んでも、土壌粒子に落ち着いた姿は不溶性の状態と考えて差し支えないと思います。
(4) 微粒子の被曝であることが鼻血の大きな条件だと思います。直径1μmの微粒子ならおおよそ1兆個の原子があり、その5%がCsであるとしても500億個のCs137原子があります。ベータ線の飛程は3mm程度です。付着被曝は内部被曝の半分の吸収線量を付着面の側の肉体に与えます。直径6mm程度の範囲に集中した被曝を与えます。実態的吸収線量がすぐ計算できますが、当該部分が被爆量1Gy程度になる条件が模索できます。例えば、直径2μmの微粒子が1個鼻の粘膜に付着したと仮定すれば、直径6mmの鼻粘膜では1時間で2mGy(ミリグレイ)ほどになります。この計算は放射線1本のエネルギーと1秒間に放出される放射線量(セシウム137が500億個、半減期が30年等という条件の1秒間の崩壊数)と微粒子が被曝を及ぼす時間から計算できます。現実に鼻の粘膜に何個の微粒子が付いたか、微粒子の特性はどうか、何時間後に鼻血が出たか、などの仮定から、より具体的な条件での計算ができます。放射線によって鼻血が出る可能性は十分あります。鼻血を「そんなことはあり得ない」と「非科学的に」力説する「専門家」がいますが、もっと具体的に〝被曝とはどういうものか″を考察してほしいものです。
「微粒子周囲の被曝量が多いのでアポトーシス(自発的細胞死)を誘い微粒子の作るホットパーティクルは発がん率を減殺する」という説がありますが、もっと具体的に電離の密度を考察すべきです。微粒子周囲の電離の密度は微粒子からの距離に依存し、それにバイスタンダー効果を考慮すれば、アポトーシスで細胞が死滅する中心領域の外側にはそれに至らない「発がん危険領域」が存在します。発がんはたった1個の異常細胞から出発するといわれていることを考慮すれば、微粒子の内部被曝は、これを均等に被曝したと仮定する場合よりはるかに高い危険度を有すると一般的に判断できます。
(5) 放射線の作用は主として電離であり、電離は分子切断(組織の結合破壊)です。ICRP信奉者の多くは、DNAだけが切られるように思い込んでいるようですが誤りです。鼻の粘膜組織を構成する分子が多数高密度で切断されると鼻血が出るように十分なりえます。鼻血が出る合理的な条件が放射線により与えられるのです。
(6) ちなみに、鼻にくっついて鼻血を出す原因となった放射性微粒子は、原子炉から放出されてそのまま鼻にくっついた場合は、不溶性であっても可溶性であってもどちらも微粒子の周囲の集中的被曝をもたらします。それは原子炉から放出された姿はほぼ100%微粒子となっているからです。その姿で鼻の粘膜にくっつき、くっついてから徐々に不溶性か可溶性かの性質の違いが出てくるのだと思います。そしてこれには微粒子から出るベータ線の被曝が一番効いてきます。「ガンマせんでは無し」にです。
(7) 人口放射能と自然放射能の違いは、いくつかあります。最大の違いは微粒子を形成することにあります。およそ1μm以下の微粒子は細胞膜を潜り抜けるといわれていますが、体内に入って不溶性であるか水溶性であるかにかかわらず、とにかく微粒子を形成すること自体が、「被曝の具体性」を考えたときに、決定的に異なることです。も一つの警戒点は、臓器に取り込まれるかどうかが重大な違いとなります。
(8) 被曝の具体性とは電離すなわち分子切断の分布や密度を具体的にとらえることです。ICRPが電離の科学的解析をしていない、言い換えれば、ブラックボックスに入れているものですから、「ICRP」によって教育を受け、それを信奉している方々は「被曝」の具体性を知ることができないのだと思います。ICRPの吸収線量の計算方法は一切の具体性を捨象して臓器(全身)当たりのエネルギーだけで行うものであり、電離等の具体的作用は一切考慮されていません。
+編集後記
福島原発事故由来の放射能が不安な市民の皆さん。その声に直接、耳を傾ける!を合言葉に始まった矢ヶ崎克馬琉球大学名誉教授による「教えて!矢ヶ崎克馬名誉教授」シリーズ。
2014年3月11日の連載開始以降、気が付けば今回で11回目となりました。読んで下さったり、ツイッターやフェイスブック、ブログで紹介して下さる皆さんのお力添えのおかげです。
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↓以下がそうです~♪
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