質問(質問者:福島県/50代/会社員)
福島県では2013年12月31日時点で74人の子供たちが甲状腺がんやその疑いがあると発表されています。これはいわゆるスクリーニング効果なのでしょうか?

回答(回答者:矢ケ崎克馬琉球大学名誉教授)
矢ケ崎克馬琉球大学名誉教授

■スクリーニング効果ではない

山下俊一福島県立医科大学副学長は、福島県で小児甲状腺がんがたくさん見つかったのはスクリーニング効果…つまり福島県の子供たち全員を対象に検査したことによって、潜在的な甲状腺がん患者がたくさん見つかったからだ。だから小児甲状腺がんは増えていないと言いますが、とんでもない。あえて言う、非科学的な物の見方だと思います。

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というのは1998年に山下俊一氏自身がベラルーシまで出かけていって、調査をしているんです。調査の内容はこうです、チェルノブイリ原発事故があった1986年4月26日にすでに産まれていてヨウ素を吸い込み内部被曝をした子供達と、チェルノブイリ原発事故後しばらくしてから生まれヨウ素を吸い込まなかった子供達と、小児甲状腺がんの発症に違いはあるのか?

それぞれの子供達を1万人近くスクリーニングしてるんです。下記がそうです。※1

≪ベラルーシ/ゴメリ州・小児甲状腺がん≫
生年月日によるスクリーニングの結果の比較
事故前に誕生 事故後に誕生
甲状腺がん 31人 0人
調査人数 9720人 9472人

チェルノブイリ原発事故当時に生まれてた子供達を、1万人近くスクリーニングした結果は31人甲状腺がんが見つかりました。

ところがチェルノブイリ原発事故当時に生まれていなかった子供達を、1万人近くスクリーニングした結果のほうは発がん者0人だったのです。

つまり小児甲状腺がんの原因である放射性ヨウ素を吸い込まなかった子供達を、いくらスクリーニングしても甲状腺がんの子供はいなかったんです。

それなのに山下俊一氏は今回、スクリーニング効果のおかげで今まで発見できなかったがんが見つかっただけだ、なんて突然言い始めている。

山下俊一氏自体はもちろん医師の免許は持っているけれども、医師の良心は全く持っていない。もはやドクターというのは肩書だけで、今や彼の頭の中は国家官僚として福島県民を切捨てる役割を今後どういう風に進めていくか?ばかりに終始しているように私の眼には映る。

医者の良心を失った山下俊一氏が、良心ある医師だった時代にこういう大事な調査結果を残している。

今、福島県で起きているこの74人に及ぶ子供達の発がんというのは紛れもなく福島原発の爆発事故に関連があって、それが原因と考えるほうが科学的にはっきりしています。

■小児甲状腺がんの増加は4、5年後から…ではない

「福島原発事故から4、5年たった後の甲状腺がんでなければ放射能が原因だとは認めない」と福島県はずっと主張していますが、これは福島県民の切り捨てを目的としていると思います。

福島県が言ってる論理はあたかも「放射能が関係するがんは、4、5年たつと突然ドカッと増える」と言っているようなものですけど。

チェルノブイリ原発事故後の甲状腺がんを見てもですね、1986年4月にチェルノブイリは爆発したんですが、その年から甲状腺がんがじわじわ増加し始めて、4、5年後には非常に多発している。

つまり甲状腺がんは、4、5年たって突然増えた…わけではなく、連続的に増えている。

例えば山下俊一氏の資料を元に、ベラルーシでも汚染がひどいゴメリ州の小児甲状腺がん登録数をグラフで書きますとね。ご覧のようにチェルノブイリ原発事故前の1986年以前青の時期は、0人~1人だったのです。ここでは縦軸が小児甲状腺がんの発生数、横軸が西暦です。
ベラルーシゴメリ州小児甲状腺がんグラフ
しかし1986年チェルノブイリ原発事故以後1991年には急増していますが、それ以前でも事故後はベースラインよりも高くなり始め徐々に小児甲状腺がん患者数が増えているのが実態です。

チェルノブイリ原発事故後の3年間を集計してみますと黄色の部分となり小児甲状腺がん患者の総計は8人となります。

福島県はゴメリ州の4倍の人口です。

単純に人口比で計算するとゴメリ州は3年間で8人。福島県の人口はゴメリ州の4倍だから。

8人×4倍=32人

しかし実際は32人どころかに相当する期間の福島県の甲状腺がんと考えられる子供達は、2倍以上74人も確認されているわけです。つまり福島県の小児甲状腺がんは、ゴメリ州よりも高い割合で増えている可能性がある。

先ほどのゴメリ州のグラフを見た時にですね。今までずっと一定だった小児甲状腺がんがチェルノブイリ原発事故後、増え始めた。その数は調査の仕方にも依存するところがありますが、小児甲状腺がんの増加と原発事故との因果関係があるのではないか?と考えるのは、むしろ当たり前のことです。

それをあえて福島原発事故の場合だけ、事故後に見つかった小児甲状腺がんと原発事故との因果関係はないと否定するほうが非科学的な話です。

このように福島県が原発事故との因果関係を唐突に非科学的に否定するのは、放射能汚染から福島県民の健康を守ること自体をすでに放棄しているからとしか考えられません。

■硝酸塩は甲状腺がんと因果関係あり

ベラルーシ国内では、放射能汚染度が薄い所と濃い所と比較するという手法で、放射能の影響を汚染濃度度ごとに調べる研究するがずっとなされていますが、その中で特に日本人が気を付けなければいけないことがあります。

放射能の汚染が低い2つの地域(モギレフ州、ブレスト州)があり、放射能の汚染度はあまり変わらないのに、ブレスト州が甲状腺の発がん者が非常に多い。※2

放射能以外の要因を探っていくと、その甲状腺の発がん者が多く出ているブレスト州には、環境として水の中に窒素化合物(窒素の元素記号はNなので、Nを含む化合物)がモギレフ州の10倍以上含まれていることが明らかになりました。

そのことは食べ物にも硝酸塩(化学式はNO3、窒素原子N1つ+酸素原子O3つでできてる塩)がたくさん含まれているという状況にあり、硝酸塩が発がん者が多いことの要因と考えられます。

硝酸塩を食べ物としてたくさんとってしまう。こういう環境は日本全国どこでも当てはまる。

硝酸塩が多い生活環境が原因で、福島県から74人という膨大な子供達の犠牲が出ている可能性があると思います。

日本人は硝酸塩を1日許容摂取量よりも過剰に摂取しているというデータ※4があり、上記のモギレフ州、ブレスト州で生じている現象とかかわりがあるのではないかという可能性が議論されています。ただし日本人の硝酸塩の摂取は野菜をたくさん食べることに依存しているので単純に比較すべきでないという指摘もあります。

■今後の小児甲状腺がん患者数は?

今後、日本全体でどれだけ小児甲状腺がん患者が出てくるか?

日本はベラルーシの7倍も人口密度が高いのだから、非常にたくさんの子供達が甲状腺がんに苛まれる可能性さえも念頭に置かなければいけない。

まずは子供達をいかにして放射能環境下から脱出させるか?こそ一番の優先事項であると思います。

そして国は、子供達が甲状腺エコー検査から治療、手術に至るまで無料で受けれる体制を早急に造らないと日本は大変なことになってしまう。

編集後記

先ほど上で矢ケ崎克馬教授がご紹介したチェルノブイリ原発事故前に生まれていたか?事故後に生まれたか?で甲状腺がんの発病率が全く違うという…スクリーニングの比較表※1ですが、見やすくするため私の判断で激しく省略してあります。

あの表を見ると、まるで原発事故後に生まれた子供達に甲状腺がんは1人もいないように誤解されそうですので、下記に表の完全版を乗っけておきます。この比較表では、原発事故後に生まれた子供達にも1人甲状腺がんになった子供がいることがわかります。油断は禁物です。

≪ベラルーシ/ゴメリ州・小児甲状腺がん≫
生年月日によるスクリーニングの結果の比較
事故前に誕生 事故後に誕生
生年月日 1983年1月1日~
1986年4月26日
1986年4月27日~
1986年12月31日
1987年1月1日~
1989年12月31日
甲状腺がん 31人 1人 0人
調査人数 9720人 2409人 9472人

実はこの資料を使って2013年3月11日に山下俊一氏はアメリカの米国放射線防護協会で講演をやっているんですよね。当時は、甲状腺がんが見つかった子供は3人、甲状腺がんの疑いが7人と発表されていた時期でした。

講演はアメリカでおこなわれましたから当然山下俊一氏は英語でしゃべっているんですが、英語が英語になっていないよ、などと英文法的に酷評された内容でした。それで親切な在米日本人の方が日本語訳※3してくださっているのでご紹介します。

山下俊一氏「(スクリーニングの結果は)大変興味深いことに、(チェルノブイリ原発)事故当時に既に誕生していて0歳から3歳だった子供達では甲状腺癌の頻度が非常に高かったのです。しかし、事故後1年後に誕生した子供達では、甲状腺癌の増加は見られませんでした。」

つまり1年前の山下俊一氏自身がスクリーニングしても放射性ヨウ素を浴びなかった子供達には甲状腺がんはいないよって言っちゃってるんですね。

矢ケ崎克馬教授は、温厚な人柄で知られている方ですが…その矢ケ崎克馬教授が「とんでもない。あえて言う、非科学的な物の見方だと思います」とまでお怒りになるのも納得いきます。

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※1 https://echo.colostate.edu/ess/echo/presentation/d6ddb666-85bd-48a3-8d83-a691910906be
※1 https://docs.google.com/file/d/0B3fFCVXEJlbvWmJRTlZXSTJhS28/editの11枚目
※2 Kazakov et al: International Congress on Interventional Ultrasound.-University of Copenhagen, Denmark,1993,p.p.110-111
※2http://www.fmu.ac.jp/radiationhealth/conference/presentation/day2/2130.pdf#search=’Kazakov+et+al%3A+International+Congress+on+Interventional+Ultrasound.University+of+Copenhagen%2C+Denmark%2C1993%2Cp.p.110111′
※3 http://fukushimavoice.blogspot.jp/2013/04/311.html
※4 http://www.ffcr.or.jp/Zaidan/mhwinfo.nsf/0/ce7101d177b43f05492569df000ba6e6/$FILE/%E8%A1%A86.pdf