今まで福島県は、福島県内の子供達の甲状腺がんのデータを平成23年度、平成24年度、平成25年度…と実施年度ごとに3つに分類して発表してきました。※1

2014年8月24日に公表された最新の報告書で福島県は、福島県内全域での検査をほぼ一巡したことを理由として年度だけでなく、地域別に分類したデータと見解を…今回はじめて発表してきました。

具体的には10万人に何人が小児甲状腺がんと考えられるか?を表す…罹患率(りかんりつ)のデータです。ただ罹患率だとわかりにくいので罹患人数に直したものが、これです。※2

福島県の小児甲状腺がん罹患率

福島県小児甲状腺がん罹患人数【10万人中】
避難区域 中通り 浜通り 会津
33.4人 36.3人 35.2人 27.6人

ご覧のように福島県内を4つの地域に分類して小児甲状腺がん患者数を比較し、二次検査の遅れている会津地方以外の3つの地域は「ぼぼ同様」として事実上福島県内の小児甲状腺がんの分布に地域差は見られないとの見解を初めて示しています。

一見、正論のように思えますが本当に地域差はないのでしょうか?一緒に検討してみましょう。

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■福島県は3地方で構成される

まずは基礎知識を少し。福島県は、北海道、岩手県に次ぐ、全国で3番目の13,782km2もの広大な面積を持つ県です。

この福島県、一般的に3つの地方に分類されます。下にある地図の一番右側…原発のある海沿いにある浜通り地方、地図の一番左側…山側にある会津地方、そして両地方の真ん中にある中通り地方です。
福島県3地方
地図の左側にある会津地方と真ん中にある中通り地方との境界を上から見ていくと…白い空白がありますが塗り忘れではありません。これは猪苗代湖(いなわしろこ)といって全国で4番目の広さをもつ湖です。
地図の右側の浜通り地方の真ん中にある×が福島第一原発です。

福島第一原発事故が起き、子供達の甲状腺がん調査が行われることになった際、福島県はこの3地方の分類は無視します。原則として平成23年3月時点での環境放射線量の高かった市町村順に実施するため福島県内の全59市町村を平成23年度対象市町村、平成24年度対象市町村、平成25年度対象市町村の3つに分類しました。※3

福島県に元々あった3つ地方に分ける分類と、環境放射線量によって3つ年度に分ける分類との関係を一覧表にして見てみましょう。

↓縦軸が地方、→横軸が年度です。
平成23年 平成24年 平成25年
浜通り
中通り
会津

まず原発のある浜通り地方の市町村は、環境放射線量が高かった市町村と低かった市町村に二極化したため、環境放射線量が高かった市町村は初年度である平成23年度対象市町村に、環境放射線量が低かった市町村は、最後の平成25年度対象市町村となりました。※4

中通り地方は、環境放射線量が高かった市町村、やや高かった市町村、低かった市町村に分かれたため、環境放射線量が高かった市町村は初年度である平成23年度対象市町村に、環境放射線量がやや高かった市町村は平成24年度に、環境放射線量が低かった市町村は最後の平成25年度対象市町村となりました。

会津地方は、すべての市町村の環境放射線量が低かったため最後の平成25年度対象市町村となりました。

この一覧表に、福島県内の子供達の10万人に何人が小児甲状腺がんと考えられるか?を表す…罹患人数(りかんにんずう)を入れてみます。不都合な真実が、その姿を現しました。

福島県小児甲状腺がん罹患人数【10万人中】
平成23年 平成24年 平成25年
浜通り 30.8人 35.2人
中通り 36.5人 38.7人 24.5人
会津 27.6人
年度全体 33.4人 38.7人 30.4人

地域差があるのが浮き彫りになっています。特に同じ中通り地方の平成24年度対象市町村38.7人と、平成25年度対象市町村24.5人が大きく離れています。この福島県にとって…不都合な真実をこのまま公表すると私みたいな人に突っ込みを入れられそうですね。

それで福島県に元々あった3つの地方に分ける分類と、環境放射線量によって3つの年度に分ける分類の両方を単純に採用した、この一覧表のままでは…公表できなかったわけです。

あなたがもし、福島県の県民健康調査の担当者で…上司から福島県内の小児甲状腺がんの分布に地域差は見られないと見解を述べれるように地域分けしなさいと指示されていたら、どうやって…この地域差をわからないようにしますか?

年度ごとの分類を廃止して元々ある3地方ごとの罹患人数という形での公表はどうでしょうか?
浜通り 中通り 会津
地方全体 33.9人 36.3人 27.6人

うーん、これでは中通り36.3人浜通り33.9人会津27.6人…という階段のように地域格差が生じでしまい出来がよくないですね。

1つ前の分類では浜通り地方は2つの年度に、中通り地方は3つの年度に、会津地方は1つの年度でしたから合計6つの地域に分かれ注意を分散することができました。しかし…この分類では3つの地方だけですから3つそれぞれに注目が集まってしまいますね。一番罹患人数が多いのは中通り36.3人、一番罹患人数が少ないのは会津27.6人という風に。

私がもし福島県庁の職員で、上司から福島県内の小児甲状腺がんの分布に地域差は見られないと見解を述べれるように地域分けしなさい。そう指示されたら…奇遇ですが…私も、福島県庁の職員が今回やったであろう方法と全く同じ手法を使います。やり方はこうです、この一覧表を。

福島県小児甲状腺がん罹患人数【10万人中】
平成23年 平成24年 平成25年
浜通り 30.8人 35.2人
中通り 36.5人 38.7人 24.5人
会津 27.6人
年度全体 33.4人 38.7人 30.4人

まず、この一覧表の中でもっとも罹患人数が多い中通り地方の平成24年度対象市町村38.7人と、もっとも罹患人数が少ない中通り地方平成25年度対象市町村24.5人を合算します。

38.7人→合算する←24.5人

平成23年 平成24年 平成25年
浜通り 30.8人 35.2人
中通り 36.5人 38.7人 24.5人
会津 27.6人
年度全体 33.4人 38.7人 30.4人

合算し…再計算すると36.3人になりました。こうすることで最も多かった罹患人数を減らし、もっとも少なかった罹患人数を増やし平均化することができます。

38.7人36.3人24.5人

平成23年 平成24年 平成25年
浜通り 30.8人 35.2人
中通り 36.5人 36.3人
会津 27.6人
年度全体 33.4人 38.7人 30.4人

そして右から2番目の列が平成24年のままではまずいので中通りという名前に変更します。

平成24年中通り

平成23年 中通り 平成25年
浜通り 30.8人 35.2人
中通り 36.5人 36.3人
会津 27.6人
年度全体 33.4人 38.7人 30.4人

一番下の行である年度全体も、あると見にくくなるので行全体を削除します。

年度全体→×削除

平成23年 中通り 平成25年
浜通り 30.8人 35.2人
中通り 36.5人 36.3人
会津 27.6人

中通りの列にある36.3人の色を赤から標準の黒に戻します。

36.3人→36.3人

平成23年 中通り 平成25年
浜通り 30.8人 35.2人
中通り 36.5人 36.3人
会津 27.6人

次に一番右側にある列平成25年度に残った浜通り地方35.2人、会津地方27.6人を…。

平成23年 中通り 平成25年
浜通り 30.8人 35.2人
中通り 36.5人 36.3人
会津 27.6人

次に平成25年度に残った浜通り地方35.2人、会津地方27.6人をそれぞれ浜通り会津という列を新設し独立させ平成25年度自体は列ごと削除します。一番左側の列である地方名も列ごと削除します。

平成23年 中通り 浜通り 会津
30.8人 36.3人 35.2人 27.6人
36.5人

最期に残ってしまった平成23年度の浜通り地方30.8人と中通り地方36.5人を合算して列の名前を避難区域にします。平成23年度対象13市町村は、ほぼ…そのまま避難区域や特定避難勧奨地点の指定があった市町村と重なるからです。

平成23年避難区域

30.8人

合算する

36.5人

避難区域 中通り 浜通り 会津
30.8人 36.3人 35.2人 27.6人
36.5人

合算し…再計算すると33.4人になりました。

30.8人

33.4人

36.5人

避難区域 中通り 浜通り 会津
33.4人 36.3人 35.2人 27.6人

これで福島県が今回、公表してきた地域別に分類したデータの完成です。

福島県小児甲状腺がん罹患人数【10万人中】
避難区域 中通り 浜通り 会津
33.4人 36.3人 35.2人 27.6人

福島県の小児甲状腺がん罹患率
こうすることで避難区域中通り浜通りの3つの地域が、10万人あたりの小児甲状腺がん罹患人数が35人前後で横並び…つまり「ぼぼ同様」になり27.6人しかいない会津に注目が集まることになります。

会津に注目が集まったところで、こう言えばいいのです。福島県の報告書にある言葉をそのまま掲載します。※1

「会津地方では二次検査完了者の割合が他の地域に比べて低めであり、その影響が考えられる」

実際に会津地方の二次検査完了者の割合が低いのか?確認してみましょう。地域別に分類した二次検査完了者の割合です。すべて完了すると100%となります。
避難区域 中通り 浜通り 会津
97.9% 96.6% 96.6% 80.8%

会津地方だけ、他の地域に比べて15%以上低いです。なるほど二次検査完了者の割合が低いから会津の罹患人数が少ないんだ。だから地域格差はないんだ…などと納得してはいけません。

確かに会津地方の二次検査完了者の割合が高くなれば、罹患人数は上昇するでしょう。

しかし思い出して下さい。会津地方よりも罹患人数が少ない地域がありませんでしたか?

福島県小児甲状腺がん罹患人数【10万人中】
平成23年 平成24年 平成25年
浜通り 30.8人 35.2人
中通り 36.5人 38.7人 24.5人
会津 27.6人

一番右下にある会津地方27.6人の真上にある平成25年度の中通り地方24.5人が一番少ない罹患人数でしたね。

二次検査完了者の割合を見てみましょう。
平成23年 平成24年 平成25年
浜通り 98.3% 96.6%
中通り 97.4% 96.9% 95.0%
会津 80.8%

一番右下にある会津地方の二次検査完了者の割合が80.8%と低いのに対し平成25年度の中通り地方では二次検査完了者の割合が95.0%と非常に高くなっているのがわかります。

つまり二次検査完了者の割合が高くなっても罹患人数が少ない地域は少ないのです。それは福島の小児甲状腺がんに、地域差が確実に存在するという…不都合な真実を物語っています。

福島県小児甲状腺がん地域格差一覧地図

福島県小児甲状腺がん罹患人数【10万人中】
平成23年 平成24年 平成25年
浜通り 30.8人 35.2人
中通り 36.5人 38.7人 24.5人
会津 27.6人

もちろん、まだ二次検査が100%完了したわけではありません。ですから福島県が今回公表した地域別比較も、あくまで暫定版に過ぎませんし、私の地域別比較もあくまで暫定版です。

それに二次検査に進み…検査完了に時間がかかっている子供達は、甲状腺がんを疑われているからこそ診断結果の確定に時間がかかっていますので…今は罹患者数の少ない会津地方27.6人平成25年度の中通り地方24.5人が、これから他の地域と同程度まで甲状腺がん患者数が増える可能性も、もちろんあるわけです。

しかし今回の福島県の報告書における地域差の比較の方法、そして地域差はないとする見解が、まるで福島の真実のように無批判に垂れ流されている現状に耐えかねて、このように検証記事を書かせていただいた次第です。

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※1 https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/80430.pdf
※2 福島県は計算の基礎となる一次検査受診者数を古いデータ295,689人を使って計算。私は公表されてる最新のデータ296,026人で計算しましたので数字が微妙に違います
※3 http://fukushima-mimamori.jp/thyroid-examination/schedule-fukushima/media/examination_schedule_2013.pdf
※4 いわき市は久之浜等一部の地区が平成24年度対象となっています
※5 http://www.nsc.go.jp/info/20120221.pdf※リンク切れ