2011年3月11日の大津波警報・津波警報・津波注意報の変化

今回の記事は、大津波警報・津波警報・津波注意報の違いと…それらの致命的欠陥を再確認したいと思います。※1

津波警報・津波注意報の種類

最初に大津波警報・津波警報・津波注意報の3種類それぞれで予想される津波の高さ(メートル)を見てみましょう。

予想される津波の高さ(メートル)
種類 予想される津波の高さ
大津波警報 3m超~
津波警報 1m超~3m以下
津波注意報 0.2m以上~1m以下
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まず津波警報や津波注意報自体の精度の問題を指摘しておきます。気象庁の『津波について』の解説ページに、こうあります。※2

気象庁『津波について』
現在の津波予測技術では、「予想される津波の高さ」の予想精度は1/2~2倍程度です。

つまり気象庁が予想した津波の高さに対して、実際にやってくる津波の高さは1/2~2倍程度の差異があるわけです。

それからマグニチュード8を超えるなどの巨大地震の場合には、津波の高さを上記のような何メートルという数値…ではなく初期の段階では 大津波警報 なら「巨大」、 津波警報 なら「高い」と抽象的に表現する場合がありますので覚えておきましょう。

予想される津波の高さ(巨大地震時)
種類 予想される津波の高さ
大津波警報 巨大
津波警報 高い
津波注意報

続いて大津波警報・津波警報・津波注意報それぞれで想定される被害を見てみましょう。

想定される被害
種類 想定される被害
大津波警報 木造家屋が全壊・流失し、人は津波による流れに巻き込まれます。
津波警報 標高の低いところでは津波が襲い、浸水被害が発生します。人は津波による流れに巻き込まれます。
津波注意報 海の中では人は速い流れに巻き込まれ、また、養殖いかだが流失し小型船舶が転覆します。

続いて津波からの避難方法。

避難方法
種類 避難方法
大津波警報 沿岸部や川沿いにいる人は、ただちに高台や避難ビルなど安全な場所へ避難してください。
津波警報
津波注意報 海の中にいる人はただちに海から上がって、海岸から離れてください。

 大津波警報  津波警報 の避難方法は同じで「沿岸部や川沿いにいる人は、ただちに高台や避難ビルなど安全な場所へ避難してください」となっています。

地震の発生と津波警報・津波注意報の発表

気象庁は、大津波警報・津波警報・津波注意報を発表する場合、地震発生から約2~3分で第一報を発表することを目標としています。※1※3

しかしマグニチュード8を超えるような巨大地震の場合には、精度のよい地震の規模をすぐには把握できません。そこで、このような巨大地震の場合に先ほどお話しした 大津波警報 なら「巨大」、 津波警報 なら「高い」という抽象的な表現が第一報などで使われることになったわけです、東日本大震災の反省から。

もちろん気象庁は、地震の規模を精度よく把握できた後は津波の高さを「巨大」や「高い」という抽象的な表現から、津波の高さ何メートルという具体的な数値での発表に切り替えてきます。

それから気象庁は、巨大地震の場合でも地震発生から15分ほどで精度のよい地震の規模の把握ができるとしています。※3

気象庁『津波警報の改善のポイント』
巨大地震の場合でも、地震発生から15分ほどで精度のよい地震の規模が把握できます。

しかし逆を言えば巨大地震の場合は、地震発生から15分以内に発表される大津波警報・津波警報・津波注意報の第一報、第二報…などは、地震の規模が正確には把握できていない状態で発表されている場合があるわけです。

だからこそ巨大地震の場合、大津波警報・津波警報・津波注意報の第一報、第二報を妄信すると文字通り命取りになることがあるわけです。2011年3月11日の東日本大震災の時のように。

2011年東日本大震災

津波警報・津波注意報3つの致命的欠陥。

1つ目は、津波警報や津波注意報の対象地域は第一報、第二報と発表されるたび広がることがある。

ですから津波警報や津波注意報の第一報で、自分の住む都道府県名がないからと言って油断してはいけません。2011年3月11日…東日本大震災の1日だけをピックアップします。下記の日本地図の赤い範囲が津波警報(大津波)の対象地域です。※4
2011年3月11日の大津波警報・津波警報・津波注意報の変化
第一報、第二報、第三報…と津波警報(大津波)の対象都道府県が広がっていくのがわかります。

津波警報・津波注意報3つの致命的欠陥。

2つ目は、津波警報や津波注意報と共に発表される津波の高さの予想は、第一報、第二報と発表されるたびに高くなることがある。

これも東日本大震災の例を見てみましょう。

わかりやすいように2011年3月11日の1日だけ。さらに対象都道府県を岩手県、宮城県、福島県の3県データのみに絞ってピックアップします。下記の一覧表の一番左の列が発表時間となっていて14:49が第一報となります。※4

2011年3月11日の予想される津波の高さ
発表時間 岩手県 宮城県 福島県
14:49 3m 6m 3m

東日本大震災は2011年3月11日14時46分に起きましたから、地震から3分後の14:49に津波警報や津波注意報の第一報が発表されたことになります。

第一報での予想される津波の高さ…

 岩手県  3m  宮城県  6m  福島県  3m でした。

問題は、これらの予想される津波の高さが第二報、第三報でどう変化していったか?

地震から28分後の15:14に津波警報や津波注意報の第二報が発表されます。

2011年3月11日の予想される津波の高さ
発表時間 岩手県 宮城県 福島県
14:49 3m 6m 3m
15:14 6m 10m以上 6m

第二報での予想される津波の高さ…

 岩手県  6m  宮城県  10m以上  福島県  6m でした。

大雑把に言えば、第一報からたった25分で…予想される津波の高さは第一報の2倍の高さになりました。続いて第三報を一覧表に追加してみます。

第三報は、地震から44分後の15:30に発表されます。

2011年3月11日の予想される津波の高さ
発表時間 岩手県 宮城県 福島県
14:49 3m 6m 3m
15:14 6m 10m以上 6m
15:30 10m以上 10m以上 10m以上

第三報での予想される津波の高さ…

 岩手県  10m以上  宮城県  10m以上  福島県  10m以上 

3県とも予想される津波の高さの上限に達してしまいました。

 岩手県  福島県 では、第一報からたった41分で予想される津波の高さが第一報の3倍以上の高さになりました。

今度は第一報、第二報などの発表時間ではなく、第一報、第二報が地震発生から何分後に発表されたか?を一覧表の一番左の列に記載してみます。

2011年3月11日の予想される津波の高さ
地震から 岩手県 宮城県 福島県
3分後 3m 6m 3m
28分後 6m 10m以上 6m
44分後 10m以上 10m以上 10m以上

では、この予想される津波の高さが発表されるたびに急激に高くなっていったことを…東日本大震災の被災者達は知っていたのでしょうか?

絶望的な気持ちになる内閣府・消防庁・気象庁の共同調査結果があります。※5

予想される津波の高さが発表のたびに高くなっていったことは?
0% 100%
岩手県63%知らなった
宮城県74%知らなった
福島県57%知らなった

東日本大震災の被災者達には、伝わらなかったのです、津波の高さが当初の2倍、3倍と急激に高くなっていったことを。

なぜ知ることができなかったのか?

もっとも多かった回答は「避難のため情報を聞く余裕がなかった」で岩手県、宮城県、福島県とも40%以上を占めます。

しかし、それ以外の回答には例えば「テレビ・ラジオが停電で使えなくなった」や「携帯電話が使えなくなった」など地震直後は生きていた情報インフラが失われていったことがわかる回答も10%以上あるのです。

それに内閣府・消防庁・気象庁の共同調査アンケートに回答している被災者は、当たり前ですが東日本大震災を生き残った人達です。

地震直後は生きていた情報インフラが失われていったことで、気象庁の第一報の津波の高さを信じたままで…津波に飲まれていった人達がいたことを絶対に忘れてはなりません。

2016年福島県沖地震

津波警報・津波注意報3つの致命的欠陥。3つ目をご紹介する前に復習がてら別の地震の事例も見てみましょう。先日2016年11月22日午前5時59分に起きた福島県沖地震をピックアップします。※6
2016年10月22日午前5時59分の福島県沖地震の震源と震度分布地図

津波警報・津波注意報3つの致命的欠陥。

1つ目は、津波警報や津波注意報の対象地域は第一報、第二報と発表されるたび広がることがあることでした。
2016年福島県沖地震の大津波警報・津波警報・津波注意報の変化

津波警報・津波注意報3つの致命的欠陥。

2つ目は、津波警報や津波注意報と共に発表される津波の高さの予想は、第一報、第二報と発表されるたびに高くなることがあるでした。

先ほどの東日本大震災の資料と比較するため岩手県、宮城県、福島県の3県データのみを第3報までピックアップしてみました。下記の一覧表の一番左の列が発表時間となっていて6:02が第一報、7:26が第二報、8:09が第三報となっています。

2016年11月22日の予想される津波の高さ
発表時間 岩手県 宮城県 福島県
6:02 1m 1m 3m
7:26 1m 1m 3m
8:09 1m 3m 3m

今度は第一報、第二報などの発表時間でななく、第一報、第二報が地震発生から何分後に発表されたか?を一覧表の一番左の列に記載してみます。

2016年11月22日の予想される津波の高さ
地震から 岩手県 宮城県 福島県
3分後 1m 1m 3m
27分後 1m 1m 3m
70分後 1m 3m 3m

津波警報・津波注意報3つの致命的欠陥。

3つ目は、津波警報や津波注意報と共に発表される津波の高さの予想とは、かけ離れた大きな津波が襲ってくることがある。

もう一度、2016年福島県沖地震の津波警報や津波注意報の第一報~第三報を見てみましょう。

2016年11月22日の予想される津波の高さ
発表時間 岩手県 宮城県 福島県
6:02 1m 1m 3m
7:26 1m 1m 3m
8:09 1m 3m 3m

この一覧表に2016年福島県沖地震でもっとも高い津波を観測した宮城県仙台港のデータ…午前8時3分に1.4メートルの津波を観測したデータを追加してみます。

2016年11月22日の予想される津波の高さ
発表時間 岩手県 宮城県 福島県
6:02 1m 1m 3m
7:26 1m 1m 3m
8:03に宮城県仙台港に1.4mの津波が到来
8:09 1m 3m 3m

8:09に第3報を発表する6分前… 8:03に宮城県仙台港に1.4mの津波が到来 しています。つまり、その時点では7:26に発表した第2報が最新ですから気象庁は、宮城県では最大でも津波の高さは 1メートル との予想だったわけです。

気象庁の予想した津波よりも、実際にやってきた津波の方が1.4倍高かった。

もしも、あなたが仙台港にいて津波注意報が最大で1メートルの津波だからと油断して海岸付近にとどまっていたら、どうなりましたか?

気象庁は仙台港での1.4メートルの津波観測後に、急きょ午前8時9分に第三報を発表して宮城県の 津波注意報  津波警報 に引き上げました。予想される津波の高さも1メートルから3メートルに引き上げました。しかし、それは…まさに後の祭りだったわけです。
2016年11月22日の福島県沖地震での津波警報と予想される津波の高さ

もちろん最初にご紹介したように…気象庁が予想した津波の高さに対して、実際にやってくる津波の高さは1/2~2倍程度の差異があるわけです。

気象庁『津波について』
現在の津波予測技術では、「予想される津波の高さ」の予想精度は1/2~2倍程度です。

ですから予想より1.4倍の高さの津波が到来したとしても不思議ではないのです。

そして、この予想精度の問題は日本の気象庁が無能だからではなく、現在の津波予測技術の限界を示しています。

では、もし…あなたが仙台港にいたとしたら、どうすればよかったのでしょうか?

例えば、津波注意報だったとしても万が一に備え、高台や避難ビルなど安全な場所への避難を開始する。

津波注意報が出ていなかったとしても、海の中にいる人は念のため海から上がって海岸から離れる。

そして東日本大震災の被災者のようにテレビ、ラジオ、スマホ、電話、インターネットなどの情報通信網が破壊され情報がまったく入ってこなくなったら?

最悪の事態に備え、すぐ高台や避難ビルなど安全な場所への避難を開始すればよいのです。

高台に避難した後に、津波の心配がないことがわかったら?そのまま高台でピクニックをすればいいだけです。

生死を分ける災害・防災備蓄品リスト→食料備蓄でご紹介した避難用リュックの中から非常食を取り出して食べながら、あなたの住む街をゆっくりと眺めてみてもいいかもしれまぜん。

津波警報・津波注意報3つの致命的欠陥。

1つ目は、津波警報や津波注意報の対象地域は第一報、第二報と発表されるたび広がることがある。

2011年3月11日の大津波警報・津波警報・津波注意報の変化

2つ目は、津波警報や津波注意報と共に発表される津波の高さの予想は、第一報、第二報と発表されるたびに高くなることがある。

2011年3月11日の予想される津波の高さ
発表時間 岩手県 宮城県 福島県
14:49 3m 6m 3m
15:14 6m 10m以上 6m
15:30 10m以上 10m以上 10m以上

3つ目は、津波警報や津波注意報と共に発表される津波の高さの予想とは、かけ離れた大きな津波が襲ってくることがある。

2016年11月22日の予想される津波の高さ
発表時間 岩手県 宮城県 福島県
6:02 1m 1m 3m
7:26 1m 1m 3m
8:03に宮城県仙台港に1.4mの津波が到来
8:09 1m 3m 3m

たった30センチの津波

最後に津波警報・津波注意報の津波の高さの話から、実際に人間を襲う津波の高さの話を少しご紹介します。1つ質問します。

あなたが立った状態で30センチの津波に襲われたとします。

あなたは立ったまま…やり過ごす自信はありますか?

たった30センチの津波なら立ったまま過ごせそうにも思えますね。

2011年3月11日、東日本大震災。岩手県の釜石市。この住宅街での救助活動中に、路上に立った状態で津波に襲われた自衛隊員の中嶋直志さんを襲った津波は…たった30センチの津波でした。
自衛隊員の中嶋直志さん

中嶋直志さんは身構えます。しかしこの30センチの津波によって中嶋直志さんの足に加わった力は約100キロ。一瞬で倒され津波に流されてしまいました。※7

東日本大震災と言うと巨大な津波のイメージがありますが、ユーチューブなどで閲覧できる津波の映像をよ~く見てみて下さい。

巨大な津波に襲われる前に、立っていた人達が数十センチの津波によって柔道の足払いを受けたように倒れ津波に流されていく映像があります。これらは、みな数十センチの津波にやられているのです。

つまり30センチの津波と言われた場合、30センチしかない津波…ではなく30センチもある津波と考えるべきです。

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※1http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/joho/tsunamiinfo.html
※2http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq26.html#tsunami_6
※3http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/tsunami/kaizen/about_kaizen_gaiyou.html
※4http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/tsunamihyoka/20110311Tohokuchihoutaiheiyouoki/index.html
※5http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/study-panel/tsunami-kaizen/06tsunami_keihou_kaizen_siryou1.pdf
※6http://www.jma.go.jp/jp/tsunami/focus_03_20161122060214.html
※7 2016.3.11NHKスペシャル「私を襲った津波~その時 何が起きたのか~」